文化祭二日目の土曜日は一般公開初日ということもあってか、どの学年のどのクラスも気合いを入れて宣伝をしていた。
我が2Zの、執事とメイドのいる喫茶店という銀八が決めていたおかしな店名の出し物も、妙や神楽達のメイド服を着た行進の影響か、売上を着々と伸ばしていた。
同棲、三十四日目。
「名前さん、指名入りました! 5番テーブルにオーダーお願いします!!」
「はーい!」
担当していたご主人様のオーダーを通した後、すぐに水の入ったコップを持って行ってお決まりの台詞である、お帰りなさいませ、ご主人様、を口に出して席に通し、オーダーを聞く。
基本、女性のお客さん――お嬢様は執事を選択して指名をしているんだけど、男性のお客さんが半端なく多くて、休憩も行けないまま時間が過ぎていった。
本場のメイド喫茶で働いてる人はもっと忙しいんだろうな。そう呟けば暇そうにしているキャサリンとハム子と目が合った。
指名が無い奴は仕事なんて回って来ない、と開店する前に銀八が言っていたのを思い出す。なんだか申し訳ない気分になった。
「名前さん、これが8番テーブルでこっちが10番テーブルにお願いします」
「ありがとう新八。こんだけ人多かったら指示出すの疲れない?」
「僕の場合は午前中だけだし、メイドや執事やってる皆の方が疲れないか心配だよ」
「疲れないように頑張るしかないんだけどねー。よし、じゃあメイド名前、行ってきます!」
「運んだ後は3番テーブルの人とジャンケンして写真お願いします」
「ん、りょーかいっ」
ワゴンに綺麗に盛られた料理やらケーキやらを乗せてテーブルにいるご主人様方に運んで行く。
微笑んで、お待たせ致しましたご主人様、と言えば、にんまりと微笑み返してくれるのだが、別に気があるわけじゃないから勘違いだけはしないでくれご主人様。
「名前、ジャンケン弱いんですけど良いですかぁ?」
「弱いのかぁー。そんなところも可愛いなぁ」
うぜぇよ豚――げふんげふん、ご主人様。
「じゃあいきますよ? 萌え萌えジャンケン、ジャンケンポン!……あっ、名前の勝ちですね!」
「あーあ、負けちゃったナリぃ」
「どんまいだよ前園氏。じゃあ次は僕の番かな」
「トッシー! まさか、ボクの仇をとってくれるナリか!?」
「萌えるあの小宇宙に誓って、必ず。任せろ前園氏」
なんだよコスモって。なんだか気持ち悪いな、このご主人様二人。あ、にこにこしながらぶりっ子してるあたしも一緒か。
つかトッシーってなんだよトッシーって。外見違うのにトシと被るのは何故だ。
「いくでござるよォォ!!」
「は、はい!…も、萌え萌えジャンケン、ジャンケンポン!」
「ぐはっ!……メイドさん、な、なかなか強いでござるな…」
「トッシィィィイ!!」
いやいやいや! なんで負けただけで吐血するの!? つか前園氏のでかい声のせいで注目浴びたじゃないかどうしてくれるんだほんとにもう!!
「久しぶりに外に出た甲斐あったナリよ、前園氏」
「トッシーにそう言ってもらえたらボクも嬉しいよ」
「で、では写真コーナーに移動しますね、ご主人様」
アキバ系な方々はこんな人達が多いのかな……でも銀八いわく、オタク系は種類がいっぱいあるらしいしなー……なんかもうよくわからないや。
「こちらに並んでもらってええですか?」
写真コーナーはカーテンで隔てた教室の一角にある。
写真係の花子に言われ、あたしを真ん中に二人が両側に立って並ぶと、メイド服のスカート越しに変な感触がする。
不審に思って確認すれば、右側にいる前園氏の左手が、綺麗にあたしのお尻に向かって伸びていた。おいおい、マジかよ。花子の説明を聞きながらわからないようにセクハラしてくる前園氏は、ご主人様の風上にも置けないと思った。
まぁこれが終わったら帰るんだからお尻ぐらい良いか、と考え直し、ほな撮りますよー、という花子の声を合図に写真が撮られた。
ポラロイドカメラはこういう場所では重宝される理由を実感した。ポラロイドカメラはチェキという名称に変わって成長をし続けているんだな。つかいつまで触ってんだ前園氏ィィ!!
「……前園氏、」
「なにナリかトッシー ブフォ!!」
花子が撮影した写真を入れるための封筒を取りに個室を出ても、前園氏はセクハラ行為を止めてはくれなかった。
トッシーが前園氏を殴る。宙を舞う前園氏。そして個室から飛んで行く前園氏。何が起きたのかよく解らなかった。
「メイドさんにセクハラするとは、それでもお前はご主人様か前園氏ィィ!!!」
「す、すまないトッシー…! つ、つい」
「ついで済んだら地球防衛軍はガンダムを作ったりはしないでござるゥゥ!!」
よくわからないけど、その一言が効いたのか前園氏は教室を飛び出して行った。
良かったんですか? と聞けば、前園氏はああいう奴だから仕方ないんだよ、と言われてしまう。二人の仲にはあたしが分からない絆か何かがあるんだろう。
花子から写真の入った封筒を受け取って会計を済ませる。
行ってらっしゃいませ、ご主人様。とお決まりの台詞を言えば、一人残されたトッシーから紙袋を手渡された。
「あの…?」
「良かったらお詫びとして貰って欲しいんだ」
「でも、プレゼントを戴くのは決まりで禁止されておりまして……」
「メイドさん。実を言うと、僕は来年この高校を受験する受験生ナリ。部屋に引きこもってばっかりだったけど、今日、外に出たら悪いことばっかりじゃないと知ったんだ。だから、来年、もしこの高校に受かったら……その時は制服で写真撮って下さいお願いします!」
おもいっきり頭を下げられてしまった。なんだ、中学生だったのか。じゃあ前園氏も中学生? あたし、中学生にセクハラされたってことになるのか?
最近の中学生はませているんだなぁ、と今考えるのは後の祭りとして、あたしの返事を気にしてか顔だけを上げてちら、と見上げてくるトッシーは、年相応の中学生だと思った。
「じゃあ、これはご主人様が入学して来たら返します。写真はご主人様の分とあたしの分の二枚撮りましょう」
「メイドさん……!」
「ご主人様、またのお帰りをお待ちしています」
「はい!」
ルンルン、とスキップをしながら廊下を進んで行くトッシーを見送り、店内に戻ると阿音百音がステージで歌を歌っているのが目についた。何してるんだろうと思って突っ立っていると、すぐにさっちゃんと新八が近づいてくる。
「名前っ、どこに行ってたのよ!」
「え? ご主人様を見送ってただけだけど…どうかした?」
「指名がたまってて、今なんとか阿音さん百音さんのツインズデュオで時間稼ぎしてるとこで……」
「ああっ、ごめん! これ置いたらすぐに戻ってくるから」
トッシーの事ですっかり忘れてた。さっちゃん愛用のどこにも繋がっているロッカーから控え室として確保している隣の教室へ移動すると、執事の面々が和んでいる所だった。
着替えの時以外は男女共に共同で使っているせいか、朝よりも荷物が散乱している気もする。
「休憩ですかィ?」
「男のお客さん増えたみたい。だから休憩無いかも。ってことで、ヅラ、メイド服着てみたくない?」
「誰が着るか、誰が!!」
「ちぇー」
「それより名前。その紙袋なんだ?」
トッシー……じゃなかった。トシが聞いてきたので預かった経緯を説明すると、なぜか中身を確認することになって、トシから命令された退に紙袋を取り上げられる。
あたしは見るつもりなんて無かったから必死に取り返そうとするものの、エリザベスに行く手を阻まれて取り返すことはできなかった。
「なんだ、これ…」
「これは漫画、アニメ研究部が文化祭用に発行した同人誌だねィ」
「同人誌ィ? なんだそりゃ」
「中身を見た方が早いですぜ、土方さん」
「まぁ同人誌が何かはさておき、名前は中身を見ない方が良さそうだな」
「他人のもの勝手に見てるクセにあたしに見せないなんてどういう了見なわけっ?」
「……山崎、これ、文化祭終わったらZ組の教室のどっかに隠しとけ」
紙袋に収納して退に渡すトシの表情は、なぜか青かった。
名前さーん、と新八があたしを呼ぶ声が聞こえてくる。
後で退に隠し場所を聞くとして、あたしは早々にご主人様に仕えるメイド名前へと戻ったのだった。
河上先生なら何か知ってそうだし、隠し場所からブツを確保したら聞いてみよう。
その後、高杉先生に同人誌を破られたと銀八が嘆きながら教室に入って来ることを、あたしはまだ知らない。
(2009/05/16)
(2019/09/01 再編集)