何がどうなって、あたしがこんなにモテ期になっているのか理解がし難い。
トシに告白された時とは、また違う感じで、悩めば悩むほど考えはまとまらなかった。


同棲、四十日目。



放課後のティータイムと称して、あたしは妙と神楽とさっちゃんと阿音百音姉妹を教室に招集した。
理由は、一つ。河上先生の事だ。
昨日の放課後にあった出来事を話せば、五人は驚いたそぶりは見せず、やっぱりそうだったか、といったニュアンスの言葉を口々に言うだけで。河上先生からの好意を気付かなかったのは、自分だけだったのかと思い知らされる。

「みんな、知ってたの?」
「知ってるも何も、昨日名前が来るまで銀さん…間違えた、銀八先生はその話をしてたんだもの」
「…は?」
「気付いてないのはアンタだけよ。土方の時も、みんな知ってたんだから」
「と言うより、知り尽くしてました」
「あら、百音ちゃんの声を久しぶりに聞いた気がするわ」
「名前、もっとお菓子ないアルか?」

いやいやちょっと待ってよ。本当に、あたしが気付いてなかっただけなの? 銀八でも知っていたって事は、結構な人間が事の次第を知っていたという事にならないか?
とりあえず、あたしの青春に値すると思われる恋愛事情をみんなに覗かれているような、ちょっとストーカーされているのではないかと勘違いしてしまいそうになる。

「まぁ、つまり。それで悩んでるわけね」
「…う、うん、そうです……」
「ぶっちゃけ、名前は河上のことどう思ってんの?」
「んぐ、…確かに気になるネ!」
「ピーッ」
「ほら、教えなさいよ」

なんなんだこのガールズトーク。とか思ってしまうが、集めたのはあたしだし相談してるのもあたしだから文句は言えない。
大人しく、河上先生のことを考えてみることにした。

「……優しい、お兄さん、…みたいな?」
「何アルか、それ」
「え、いや、だから…」
「じれったいわね! 好きなのっ? 嫌いなのっ?」
「好きか嫌いなら好きな方だけど……」
「けど?」
「恋という感情じゃない、と…思う」
「なら断れば良いのよ」

やけにはっきりした事を言ったのは、ポッキーを食べるさっちゃんだった。
食べ終わり、紙コップに入ったジュースを飲んだ後に、じゃあ名前の本命は誰なの? と、一言。
いきなりのことで時間が止まった気がした。そんなあたしの事は気にかけずに各々が盛り上がって言い合う。
退だとか、やっぱりトシだとか。そして行き詰まった結果、あたしに詰め寄ってきた。

「ほら、誰なの?」
「白状するアル!」
「銀八先生だったら、ライバルとして認めてあげるわ!」
「ピーッピーッ」
「楽になっちゃいなさいよ」

いろいろと怖い。その前に銀八じゃないからさっちゃん。
あたしあの人と付き合わなきゃ地球が滅亡するとか言われても嫌だからさっちゃん。だから安心してさっちゃん。

「と、ととととりあえず、あたし、別に誰が好きとかないし! それに、好きって感情…わからないし……」
「それは簡単よ」

妙がじゃがりこサラダ味を一本、指のように突き立てて言った。

「目を閉じて思い描いてみるの。出て来た人物が名前の好きな人ってこと」

簡単過ぎて信憑性に欠けるけど、その方法を今試さなければこの場は収まらなさそうだし、仕方なく目を閉じた。

「好きな人って念じてみて」

と、また妙が言うので、好きな人、好きな人、と念じてみる。
半信半疑ではあったが、人物が浮かんだ瞬間、あたしは自分が信じられなくなって頭を左右に振った。

「だれ? 誰が出て来たの!?」
「……エリザベス…」

がっくり、とうなだれる五人。ごめんなさい。何回もあたしは心の中で謝った。
本当はエリザベスじゃない。エリザベスには好意を持ってるけど、それは友情としてだし恋愛感情ではない。

「帰りましょう。なんだか、どうでも良くなってきたわ」

妙の一声で、五人はあたしを残し教室を去って行った。扉が閉まる音が聞こえる。
足音が遠くなったのを確認して、あたしは机に突っ伏した。そしてもう一度、目を閉じる。
やっぱり出てきたのは、あの、夏の勉強合宿の日の高杉先生だった。
記憶から抹消していたはずの事が、いっぱい頭の中を駆け回る。いきなりされたキスのことや、写真の女の人のこと。

「ないないないない! あたしが、あの変態保健医を好きになるなんて、絶対――、」

そう、ありえない。ありえるはずなんてない。なのに、入学式の記憶が、桜舞う木の下で見た白衣の男の人の映像が頭に流れこんでくる。
……あの時あたしはその白衣の先生にときめいたんだ。
綺麗だった。桜が、じゃない。桜舞う中に居た白衣の高杉先生が、……綺麗だったんだ。

「……認め、たくない」

小さな呟きで抵抗するが、頭に流れる映像は全て高杉先生とばかりで。
胸が高鳴る。どくん、どくん。頭に流れる映像と心臓の音を消したい。体中が熱い。
なんだろうこれ。なんだか、苦しい。これが恋なんて思いたくないけど、思わなくちゃいけないんだと、認めなくてはいけないのだと、本能が認識してしまっていた。
親戚だ、親戚。そう、あの人は親戚だから、この気持ちは認めてはいけない。いけないのに、どうしてもあの姿を思い浮かべてしまって、気持ちを押し込めようとしても出来ない。
これは、もう、駄目だ……。


どうやら、あたしは変態保健医を好きになってしまったらしい。

(2009/09/09)
(2019/09/01 再編集)