目が覚めたら、あたしの隣には先生が寝ていた。
なんだかデジャヴュ。
でも服は昨日着ていたワンピースのままで、先生もシャツとズボンを履いている。
そして、枕元には青い細長い箱が置かれていた。
同棲、四十九日目。
「…先生、起きてますか……?」
「……ん、…どうした?」
どうやらガチで寝していたらしい先生は、眉間にシワを寄せて目を閉じながら聞いてきた。
この箱なんですけど。言いかけた途端にぐるんと視界に映る世界が回転する。目の前には、眠そうに何度か瞬きをする先生の顔。
「先…生?」
「白い髭を生やしたスウェーデンかどこからか来たジジィからの贈りもんだろ。気にせず寝ろ」
「いやいや、十分気にしますから。…じゃなくて、なんであたし先生の部屋で寝てるんですか。デジャヴュですか。とりあえず先生、学校行かなくて良いんですか? 保健医って部活動が有る限り学校に行かなきゃいけないんじゃあ…」
「行かねェ」
「仕事しろよコラ」
舌打ちをして起き上がる先生はまだ眠いようで、大きなあくびをしてスーツの上着を羽織った。
「昨日着たやつで良いんですか?」
「上から白衣着るんだ。ネクタイさえ変えればわからねェだろ」
「そういうもの、なんですか…?」
「そういうもんだ」
着々と学校へ出勤する準備を進めていく先生を見ていると、昨日の事が嘘のように思えてくる。つい、綻んでしまう口元を隠せれない。
「…じゃあ行ってくる。ちゃんと着替えとけよ」
「あ、…はい! 行ってらっしゃい!」
準備の完了した先生が部屋を出て行き、そして玄関のドアが閉まる音がした。
「……えへへ」
きっと神楽か妙に気持ち悪いと表現されそうな笑いだろう。ベッドにダイブ。先生のにおいが心地良く感じてしまう。
「夢、じゃないんだよね…」
昨日の事を思い出してみる。
昨夜、先生はあたしを好きだと言ってくれた。嬉しくて泣き出しそうになった。いや、既にあたしは泣いていた。文句を言っていたのにいつの間にか先生に告白をしたという事実に恥ずかしさを感じながらも、あたしは先生と付き合う事になった。…と思う。
まだあんまり実感は無いし、今日だって一緒に寝てた理由があんまり覚えていない。
「よしっ。お風呂に入ろっ」
寝ていたからか、服も髪もくしゃくしゃだ。急いでお風呂に入って昼食と夕飯の買い出しに行こうと思った。
「クリスマスだし、オードブル作って、ケーキ作って…って、そんなものかな」
スーパーで夕飯にするオードブルの材料とケーキの材料を籠に入れ、会計を済ましてから家路を急いだ。
マナー設定にしている携帯が何度か震えていたけど、気にしてる余裕なんてあたしには無い。
家に着いてすぐに料理に取り掛かろうとしたら、また、ポケットに入れていた携帯が震えた。長さ的に、多分、電話だ。
携帯を確認すれば、着信は銀八。先生じゃないのかよ、と気が滅入るのを隠しつつ通話ボタンを押す。
「……もしもし?」
「クリスマスに独り身な銀さんでーす。名前、今暇か?」
「暇…じゃあないけど……えっと、なんなの?」
「なら良かった良かった。今お前ん家のマンションの下だから、インターホン鳴らすから開けてくんね?」
「はぁ!? ちょっと、何言って 」
詳しく聞く前に電話は切れ、インターホンが鳴る。ニヤニヤと笑う銀八の背後には、神楽に妙にさっちゃん。それからトシ達剣道部の四人組にヅラとエリザベスが銀八と同じようにニヤニヤ笑って立っていた。
盛大な溜め息が漏れ出て、仕方なくオートロック解除のボタンを押す。むしろそれしか選択肢が無かった。
「…………で、なんで家に来たの…?」
「そう怒らないでよ名前。昨日のクリスマスパーティーの二次会みたいなものなんだから」
「いや、なんであたしん家なの?」
「だって昨日は名前が居なくてマヨネーズ野郎が可哀相だったからアル」
「そうでさァ。口を開けば名前の事ばっかりで…」
「言ってねェ!!」
「まぁ、突然押しかけたのは悪いと皆思ってはいるんだ」
『そうですよ。皆名前さんが居なくて寂しかったんです』
「とか言いつつ全員寛ぎ過ぎ。なに勝手にWiiしようとしてんの? あたしん家だからね、わかってる?」
家に上げてしまったのはもう仕方ない。あたしも皆と会いたかったから、ここは折れてクリスマスを皆と楽しむことにしよう。
きっと遊び疲れて雑魚寝するだろうし、その機会を伺って夕飯の準備に取り掛かれば大丈夫だろうし。
「飲み物はー…って、買ってきたんだ」
「お菓子もジュースもお酒も銀八先生にあげる愛もテンコ盛りよ!」
「俺はお妙さんへの愛が…もげふっ!」
「近藤さん、人の家なんで吹き飛ぶなら気をつけて下さいね」
「うっさいヨ、ジミー。大人しく紙コップにジュース注ぐヨロシ!」
クリスマスになっても、やっぱりZ組はZ組らしい。
とりあえず先生に連絡をした方が良いと思って携帯のディスプレイを見たら電池が少ない。そういえば、昨日から充電をしていない。
充電器を持って来ようと自分の部屋に行けば、机に置かれた青い細長い箱が目に入った。そういえば、お風呂に入る前一回部屋に戻った時に置いたんだった。
「これくれたの、サンタさんじゃなくて先生だよね」
箱の蓋を思いきって開けてみる。中のものは細いチェーンのシルバーネックレスだった。一粒大くらいの大きさのピンク色の石がアクセントになっている。シンプルだけれど、一言で表現するなら可愛い。
蓋の裏には、MerryX'masと金の文字。ピンクの石は何の石か分からないし、あたしなんかが貰って良いのかもわからなかったけど、サンタさんからのプレゼントなら心置きなく貰おうと思った。
お礼に夕飯頑張らなきゃ!
(2010/01/01)
(2019/09/03 再編集)