時間とはあっという間に過ぎ去って行くものだと実感した。
テストが終わったと思えばすぐに耐寒持久走の日となり、それが終わればもうバレンタインの季節だった。
本当に、時間はあっという間に過ぎ去って行くものだ。


同棲、五十五日目。



先生はいつも遅くまでパソコンで作業をしているから、先生の寝る頃である午前4時にあたしは起床した。
自分の部屋を出て、先生の寝る部屋の明かりを扉の隙間から確認すれば、室内は真っ暗なようだ。音をたてないようにリビングに移動して、台所で作業を始める。
チョコレートを使ったお菓子は定番中の定番過ぎてかぶりやすい。というわけで、あたしは誰もが作らないであろう、お菓子作りの腕がわかるようなものを作ろうと思った。

「浸しておいたクッキーは……うん、良い感じになってる」

二つあるタッパの片方を冷蔵庫から取り出して中を確認すると、コーヒーに浸しておいた大量のクッキーは水分を吸って良い土台になりそうだった。
それを確認し終えてから、もう片方のタッパも取り出し中を確認する。中に入れていたチーズクリームも良い感じだ。

「あとは生クリーム入れてっと…」

音をたてないようにというのは多少無理がある電動の泡立て機の機械音にあたふたしながらも、あたしのお菓子作りはいつも朝食とお弁当を作る時間である6時まで続いた。
その格闘時間に対する思いも疲れも、目の前に並ぶプラスチックのカップに容れられたティラミスを見ればぶっ飛んでいった。
完成した。あとはラッピングして終わりだ。久し振りに作ったからレシピを忘れていたらどうしようかと思ったけれど、案外忘れていないものだ。
ガチャ、とリビングと廊下を隔てるドアが開く。

「あ、おはようございます、先生」
「…ああ。朝早くから何してたんだ?」
「えっと、先生のは…これです」
「ほォ…、ティラミスか」
「バレンタインなんで」
「そういや、今日は14日か」
「下準備は昨日の内に済ませたんですけど、やっぱりラッピングとかは当日やった方が良いじゃないですか」
「そう思うなら早く仕上げちまえ。遅刻すんぞ」

そういえば、ティラミス作りに気をとられていて朝ご飯とお弁当の準備は全く出来ていなかった。というか、忘れていた。先生はそれを知ってか知らずか、朝食の催促を遠回しにしてくる。
早々とラッピングを済ませて朝食作りと平行してお弁当を作りはじめる。ニュースを見て寛ぐ先生にコーヒーを持って行けば、恒例のブラック占いが始まった。

「名前、」
「はい? パンならもうすぐ  
「お前、今日の運勢最悪だぞ」
「はい!?」

一瞬カップを落としそうになった。テレビ画面を見ると、確かにあたしの星座は最下位で、良いことなんて何も書いてない。せっかくのバレンタインなのに、最悪だ。
とりあえず、そんなことに気をかけるよりもお弁当を作ることに集中しよう。トースターから焼き上がった食パンにバターを塗って先生に渡し、残り少ない時間をお弁当作りに徹した。そのせいもあって、あたしは朝食を食べることも出来ず、遅刻するぎりぎりの時間に家を出たのだった。
先生は先に行きやがったし、本当、最悪だ。




お腹減った…。

(閑話的な。2010/02/15)
(2019/09/03 再編集)