いつも通りの学校。いつも通りの教室。
でも、二年Z組の教室だけはいつも通りじゃなかった。


同棲、五日目。



「てめーらァァ賞金欲しいかァァア!!」
「オオオオ!!」
「焼肉食い放題に行きてェかァァア!!」
「オオオオ!!」

異様な熱気が教室内に満ち溢れる。
二年目となれば慣れたものだけど、今年は賞金が出るのか、などと暢気に考えることが出来るあたしもあたしだ。
季節も四月から五月に変わり、その一大イベントが再来週末に行われる。そう、体育祭だ。
最近、体育祭に対する生徒のマンネリ化を防止するために何か商品を用いて実行してるこの銀魂高校は、去年がクラスの打ち上げ会としてカラオケ一日貸し切り券、今年はとうとう十万円の賞金になった。
Z組は今年も優勝して焼き肉食い放題に行く、というのが担任から言われた決定事項。食費は浮くし、お肉食べれるしやるっきゃない!

「じゃあまずは障害物が二人〜」
「ヅラァ、やっぱ最後にパン食べなきゃだから神楽でしょ?」
「名前、ヅラじゃない桂だ! リーダーはそれで良いですかー?」
「任せるネ!」
「後もう一人はどうしやす?」
「つかよ、去年と種目の変わりが無いなら一緒で良くねェか?」
「トシ! 侍は常に正攻法をだな、」
「去年と同じでいい人ー。……はい、近藤以外全員一致なので可決しましたー」
「嘘ォォオ!!?」

今日も良いチームワークですZ組。
去年も学級代表をしていたヅラの事だから集計した結果もとっておいているだろう、と考えれば残りのロングホームルームの時間はこのクラスにとって自由な時間。
新八はなんか内職してるし、神楽は本日何箱目かわからないお弁当を手にして沖田と闘ってる。妙はゴリラ退治に勤しんでいて……と皆が自由行動している中、前を見るとまだ立ったまま考え事をしてるようなヅラが居た。あ、なんか嫌な予感。

「皆ァーきいてくれー。実は、」
「皆さん桂君が喋ってますよ」

屁怒呂くんの一声。神様や閻魔様に死刑宣告されるよりも屁怒呂くんに死刑宣告されたら今すぐ死にたくなるとはよく言ったもので、全員すぐにお葬式モードへと移行する。
今日も皆仲が良いなぁ。なんて、他人事のように感じながらヅラを見た。

「実は、今年から特別競技が加えられたみたいで、」
「ヅラ、勿体振ってないで早く言えヨ」
「……全学年全クラス対抗女子チアガール応援競技が追加されたらしい」
「桂くん、なんなんだ、その、チアガールというのは」
「若! チアガールというのはへそ出しパンチラ有りの男の本能をくすぐるほどの女子が羞恥を曝す応援の事でブホォ!!」
「おい東城。てめェ九ちゃんに何吹き込んでんだコラ」

危ない危ない。変態のせいで九ちゃんに変な知識が埋め込まれるとこだった。
さすがだぞ、あたしの右拳! その右拳は変態保健医にも牙を向いてくれたらとてつもなく嬉しいのだけれど。

「九ちゃん、チアガールっていうのは、応援団の女の子バージョン、って感じよ」
「ぼ、ぼくもやっていいのだろうか」
「私ノ引キ立テ役グライニハ、ナルダロウナ。セイゼイ頑張ル事ダ」
「つーか、人前でそんな恰好したくないんですけどォー」
「大丈夫ヨ。ハム子はやらなくてもいいアル。つかやるな」
「なんだよその命令。それからハム子じゃなくて公子だっつーの!!」
「先生! 私、先生との恋の応援頑張るわ!」
「そのノリで屋上から飛び下りてくれたら考えてやっても良いぞ」

あれ、ちょっと待て。チアガールするの? もしかして女子全員やる気なの?
疑問を自分の中で投げ付けていると、黒板にZ組女子の名前が書かれていく。ヅラは面倒臭い奴だけれど、字は普通に綺麗で読みやすかった。
一通り書き終わり、ヅラがクラスに一枚配られてるプリントを見ながら説明しはじめた。

「えーっと、人数は奇数で七人か九人。衣装や楽曲、内容は各自で準備…って事で女子の皆さんは机に突っ伏してくださーい。男子のみで投票を行いまーす」
「女子に拒否権は!?」
「ありませーん」

いやいや、なにその男子中心政治みたいなの! Z組は民主主義じゃなかったの!? と声を荒げてはみるが、選ばれなかったら良い訳なのだ、と思いなおす。
とりあえずヅラに言われて仕方なく机に顔を突っ伏した。
全員が突っ伏した所で男子は一人三回まで手を挙げることを要請し、多数決が行われていく様子を聞き取るしか出来ない。
お願いみんな! あたしには手を挙げないで…!!

「はーい、決まりましたー」

ヅラの声で顔を上げて黒板を見ると、名前の下に獲得数が書かれたままだった。消せよ!!

「名前が1番多かったんで、1番目立ってもらおうかと思います」
「はーい!!」
「いや、はーい、じゃないから! あたしやりたくないし!」
「決定事項でーす」
「ヅラ死ね!」
「次に多かったのが、志村妙さんで  
「無視かよコラ!」

助けを求めようといざというときに頼りになる担任に目線を送ってみると、目を合わさないように携帯を取り出して見向きもしない。多分アレ動画見てるよ、横画面だもんアレ。マジ死ねよ天パ。糖を取りすぎて死ね。
しばらくするとポケットに入れていた携帯がバイブを立てたので開いてみると、銀八からのメール。横画面でメール打ってたのか、すごいな。ではなく、内容を見る。高杉にはちゃんと説明しとけよ――って、

「うがァァァァァァア!!」
「名前どうしたアル!?」
「天パ死ね! 今すぐ死ね!! 睾丸爆発して死ねェェェ!!」
「ちょっと名前! 落ち着きなさいよ!」
「ピーッピーッ」

阿音と百音が必死に止めてくるが、視線の先でニヤついているあの天パがうざくてうざくて仕方がない!!
新学期が始まってから幾度あの天パを殺したいと思ったことか!
これは、負けられない、闘いなのだ…!!

「名前、バズーカ貸してあげやす」
「天誅ゥゥゥウ!!!」
「ちょ、待てって名前! 冗談だってば…! ぎゃあああああ!!」

見事、白髪天パを仕留めたあたしだったが、結局みんなから説得されて――屁怒呂くんに逆らうのが怖かったなんて言えない――チアをやることになった。
タカスギ先生には何て言おう、とか、色んな意味でからかわれるんだな、とかを考えると、帰るのが憂鬱になってしまう。
いつもより少し遅れての帰宅になっている気がする。まぁそんなはずもなく、寄り道をしなかった今現在、マンションのエレベーターに乗ってるのだけど。

「いくら焼肉のためだとしても、あたし踊れないし運動神経も皆みたいに良くないし。唯一クラスで誇れるのは料理の腕くらいなんだけどな」

同居人のおかげで腕前アップした料理の腕は、たった一ヶ月されど一ヶ月でかなり上達した方だと思う。現に、台所のグリルで焼き魚のアレンジ料理が出来るくらいには上達しているはずだ。
これはもう、諦めるしかないのか。受け入れるんだ……焼き肉の為。食費のために頑張るのよ名前!

「はぁ…」

それでも口から吐き出される溜め息は、目の前のグリルで焼き魚が焼き上がる音に掻き消された。



いつも夕食時に帰ってくるタカスギ先生に体育祭の事を焼き魚をお箸でつつきながら話すと、これまたいつも通りにククッと喉を鳴らされて笑われた。
笑うところじゃないと思うのはあたしだけですか、そうですか。

「やるならもうちょいウエストの肉、絞らないとな」
「ちょっと! なんであたしのサイズ知ってるんですか!」
「俺の職業思い出せよ馬鹿」
「あ、変態保健医…」
「変態は余計だ。この間の身体検査、忘れたわけじゃあるめー」
「あ、……じゃあ、もしかして、」
「体重は  
「言わなくて良いですむしろ言わないで下さい!!」

なんとか言わせないようにする。言っても言わなくても減るもんじゃねェ、とは先生談。
確かにそうなのだけれど、現実は受け止めたくないものだ。
先に食べ終わった食器を片付け、流しに置いて洗い始める。先生はまだ笑いながら夕飯を食べていた。

「名前、」
「なんですかー? 味の苦情は聞きませんよー」
「お前のチアガール姿、楽しみにしてるからな」
「それはどうもありがとうございます、こうえいです」

あたしをからかってるという事が分かりきっているので、棒読みで返事をして洗い終わった食器を今度は拭いて重ねていく。
やっぱり、タカスギ先生は笑って、あたしの反応を楽しんでいるようだった。



あたしだってやれば出来るんだから!
(2008/08/08)
(2019/09/01 再編集)