もうすぐで二年生最後のテストが始まる。勉強はした。ひたすら高杉先生のスパルタに耐えながら勉強したから、きっと良い点数が期待できるはずだ。
配られる問題用紙と答案用紙が自分のもとに届くまで、かなり時間がかかっているように感じる。
シャーペンを握りしめる手に汗がにじんだ。


同棲、五十六日目。



「終わったァァ!!」

誰かがそう叫んだ後、Z組の教室はいつもの雰囲気に変わった。
今回の学年末テストはこれで進級するか留年するかが決まるので、テスト期間中はいつもぴりぴりとしているんだけど、テストが終わればこっちのものだ。
あたしも背伸びをして帰る準備を始め、ホームルームをしにやって来る銀八を待つ。

「名前、出来はどうアルか?」
「わかんない。でも、良い点じゃないと先生に殺されるような気が…」
「大丈夫よ。お葬式にはちゃんと出てあげるから」
「妙ひどーい」

いつもの三人で話していると、安物スリッパをぺたぺたと鳴らしながら銀八がやって来た。
いつも通りのやる気ない顔とだらけたスーツと白衣を着ている。つか、毎回思うんだけど、国語教師なのになんで白衣?

「キャラ立ちの為だ。先生も好きで着てるわけじゃあありませんー」

じゃあ脱げよ。とはまあ言わないもののクラス全員思っている事なんで言わないでおく。
あとは適当に終業式まである休み中の注意事項やら、留年者と補習者への連絡される日程を話され、銀八のやる気の無い声でホームルームは終わった。
がやがやと騒ぎだす皆には参加せずにあたしは携帯を取り出し、神威さんにメールを送る。

「名前帰りましょう?」
「腹減ったアル!」
「あ、うん、帰りたいのは同じなんだけど…あたし、今日バイトがあって…」
「あら、まだ続いてたのね」
「妙って最近あたしに対して酷くない?」
「愛の鞭よ、ね? 神楽ちゃん」
「……………あんな所、さっさと辞めるべきヨ」

妙のは飽き性であるあたしに対する冗談だった。でも、神楽のは冗談と捉えようもないくらい、声色も表情も暗かった。
あたし達三人を囲む空気が一瞬変わり、それに気付いた神楽本人が明るい声色に戻した。バイト頑張るアル。そう言い残して神楽は教室から一人で出て行こうと踵を返した。
ここでいつもなら妙が追い掛けるのだが今日はしないらしく、理由を聞いてみれば、今はそっとしといてあげましょう、という返答が返ってくる。

「神楽ちゃんの家族って、ちょっと特殊なのよね」

妙の呟きを聞いてしまったあたしは、その意味が気になって訊ねてみると華麗に誤魔化されてしまう。真意がわからない。
その事が頭から離れなくて、バイト終わりにでも神威さんに聞こうと思っていたが、今日に限ってお客さんの出入りが激しく、忙しかったから神威さんにも阿伏兎さんにも聞けず仕舞いで。家に帰宅して先生に相談してみれば、放って置け、としか言われなかった。

「そういうのは、他人が首突っ込んだらいけねぇんだよ」
「…そういうものですかね……?」
「おめーがあいつらの世話を焼く必要なんざ米粒一粒も無ェんだ。そんな事に気を向けるぐらいならこのみそ汁なんとかしろ。塩っぽいぞ、俺を殺す気か」
「どこの嫁いびりをする姑ですか…!」


願わくば、二人が早く仲直りしますように。

(2010/03/02)
(2019/09/03 再編集)