同棲、七十一日目。



最後に確認をするとかで、お昼ご飯をしっかり食べれなかったあたしは、足首の痛みを堪えながら練習に参加していた。
足を踏み込む度に激痛がする。が、それを表に出さないようにおもいっきり笑う。
痛い。痛くない。痛い。痛くない。
自分に暗示をかけて決めポーズ。うん、大丈夫。これくらいなら我慢できそうだ。

「さぁ、今年も優勝するわよっ」

妙が意気込んでそう言い、あたし達はそれに頷いた。そろそろZ組の番だ。
入場門に進めば進むほど足の痛みはひどくなっていく。でも、我慢出来ないほどじゃないし、多分、大丈夫。

「名前? 足、痛むアルか?」
「えっ? 何言ってんの神楽! そんなわけないって。ただ上手く踊れるか心配なだけだよ」

気が抜けて、我慢してるのが顔に出てたのかもしれない。それに気付いた神楽をなんとかごまかして、入場門に列ぶ。
刹那、ガツン、と今まで以上の痛みが全身を駆け巡った。

「あっ、すみませーん。大丈夫ですか?」

体育委員の下級生が運んでいたハードルが、ピンポイントで右足首に当たったようだった。
声も出ないほどの痛みがしたが、あたしは笑って大丈夫だと手を振った。わざとでは、ない、と思ったから、…なんだけど。下級生がハードルを運んだ先に居る人物を見た瞬間に故意だと解ってしまった、あたしの無駄に冴えてる頭をかち割りたいと思った。

「……あの人、体育委員担当してたんだ」

与えられた任務を終えた隊員を褒め、評価する指揮官である隊長はあたしを見てニッ、と笑った。

「名前、行くわよ」
「……うん」

ちら、と自分の右足首を見たら、腫れが見るだけでひどくなっていることがわかる。痛くないようにテーピングをしているはずなのに、その所為で締め付けられているように、痛い。
…大丈夫、大丈夫。何度も自分に暗示をかけて立ち位置に立てば、自然と痛みがひいていったような気がした。





「いっ…つ……ッ!!!…っ! っっ!!」

終わった後の激痛は半端なかった。しゃがみ込んだあたしを抱き抱えたのは銀八だった。
中央で決めポーズをして拍手喝采の後、すぐにあたしの元に駆け寄るとはさすがだな、銀八。今度喫茶店に来た時にはチョコパをサービスしてやろう。…なんて、考えるだけ考えるが足の痛みは増していく。
3Zのテントに着き、靴を脱がされるだけで、テーピングを剥がされるだけで、あたしは奥歯を噛み締めた。

「名前っ、お前どうして言わなかっ……っ!?」

焦った表情であたしの足首を看る銀八が、やって来るなり怒鳴る高杉先生を殴った、のをあたしは朦朧とした意識の中で見ていた。
なにしてんだ、良い大人が。銀八が先生に向かって何か怒鳴ってるけど、よくわかんないや。うん、痛い。あー、痛い。………あ。

「お腹減った…」

あたしの腹の虫が二人の喧嘩を止めさせたのは言うまでもない。恥ずかしっ。

「保健室に運ぶぞ、良いな?」
「…はい」

銀八の次は高杉先生に抱き抱えられる。二人のファンからしたらあたしは嫉まれるんだろうな。へへん、高杉先生はあたしの彼氏なんだ、から……あれ、泣きそう。



「大人げないわね、銀八」
「……野邊。…見てたのかよ」
「騒ぎが大きすぎるんだもの、野次馬は自然と集まるもん、でしょ?」
「…へーへー」
「おい、銀八」
「…なんだ?」
「やり過ぎなんだよこの天パ」
「いやん、土方くんひどーいっ」
「ふざけてんのも大概にしろよ、この天パ教師」
「……ふざけてなんかねーよ。むしろ正常だ」
「は?」
「俺もお前も、野邊も…ついでに河上せんせーや神威さんだって、皆同じ気持ち抱えてんだよ」
「…あら、そういう事なら、共闘する?」
「やだね。あいつに嫌われたくはないからな」
「昔っから素直じゃないのね」
「おめーに言われたくねぇな、それ」



運ばれた保健室は、白で統一された懐かしい場所だった。
ソファに座らされ、足は足台の上に置かれる。まじまじ見ると、面白いくらいに腫れ上がっていて赤黒いというか、紫というか、なんというかグロテスクだ。
貼られた湿布の冷たさが、去年の事をあたしに思い出させた。

「……痛むか?」
「…はい」
「……そうか」
「………」
「………」

生徒と教師の事務的な会話の中で、さっき先生はあたしの事を名前で呼んでくれた事を思い出した。
それだけで今までの事を許してしまおうとか考えるなんて、あたしはどれだけ先生馬鹿なんだろうな。


先生、と呼べば以前みたいに優しく微笑んでくれるだろうか。

(2010/09/11)
(2019/09/04 再編集)