同棲、七十二日目。



三年連続優勝を果たしたあたし達、3年Z組は、優勝賞金を持って神威さんのお店に押しかけていた。
今日は貸し切り、らしい。勿論あたしは、従業員として働いていた。

「名前、チョコパとアイスココア」
「ガトーショコラとティラミスとプリンと、あとメロンソーダ三つ」
「海鮮風パスタ」
「トマトとチーズのサラダと、手づくりパン8種セット」
「カルボナーラとコーンクリームスープのセットで」
「アイスコーヒーとバウムクーヘン」
「とりあえず、スマイル」
「そんなもん無ェよ、この腐れ天パが」

皆はあたしが怪我人ということを忘れているのだろうか。覚えているのにこの仕打ちは流石に残虐過ぎる。
店内の隅々まで行き、オーダーを聞いて厨房に通し、出来た料理をテーブルに運んで行く。チアの応援合戦よりもハードだ。
なのに、足は痛みを訴えることはない。

「名前ー、このチーズインハンバーグってさ…」
「はいはい、今お聞きしますので少々お待ち下さい」

喫茶店のファミレス化してきたメニューを覚えるのは一苦労した。
夕方5時になると朝昼メニューとはがらっと変わるので、それはそれで流行りのお店みたいで良いんだけど、一人しかいない従業員を労ってください、店長。

「名前ちゃん、13番テーブルのグラタン出来たよ」
「はいっ」
「あと、2番テーブルのコーヒーね」
「はいっ」
「気をつけてね」
「…はいっ!」

笑顔で気をつけてね、なんて反則だ。返事が遅くなってしまった。
忙しい厨房とホール内に比べて、店長である神威さんはカウンターのケースから既にカットされているケーキを手際良く取り出し、可愛い小皿に盛りつけている。
神威さんの周りだけ、なぜか時間がゆっくり進んでいるような、そんな錯覚を起こしてしまいそうで、すぐに目をそらした。

「お待たせしました。当店オリジナルの手づくりグラタンでございます」
「ありがとうでござる」

テーブルに運ぶと、グラタンを頼んだ河上先生、銀八、トシの異様な三人組がテーブルを囲んで座っていた。なんでこの三人なの? あえてのこの三人なのっ?
でも、教師陣が揃っているのに、先生の姿は無い。

「名前ー、俺のパフェまだー?」
「少々お待ち下さい」
「名前ー、ご主人様って呼んでみ?」
「今すぐ消えて居なくなってください天然パーマネントが特徴的な死んだ魚のような目をした変態ご主人様」
「……あ、なんかきゅんとキた」
「それが萌えというものでござる、坂田先生」
「意味わからねぇ」
「君にもわかる時がくるでござるよ、土方君」
「なんなのっ? ほんとこの教師二人は何しに来たのっ?」

いや、他の皆もあたしをからかってばかりでにやにやとこちらを見てるから同類か。
とりあえず、さっき勝手に服の採寸をしていた東城はぶっ飛ばしたが、大量の戦車に囲まれた歩兵みたいな感じというのもあり、ホール内を歩き回るのが疲れてきた。これ完全に気疲れだよね。

「名前ちゃん、どうかした?」

立ち止まっていたあたしに向かって神威さんが声を掛けてくれた。正に天使の助け! 冒頭で文句言ってしまったことを取り消して謝ります! ごめんなさい!

「ちょっと足首が痛くて……休憩、早めに貰っても良いですか…?」
「動き回ってたもんなぁ。…うん、良いよ。悪化しちゃあだめだもんね」
「ありがとうございますっ」

即、お礼。即、事務所に移動。椅子に座った瞬間に足が痺れてきた。立ち仕事し過ぎだろ、あたし。
テーブルの上に置いていた自分の携帯を見るが、ライトがチカチカと光っているわけも無く、ディスプレイを確認しても設定している普通の待ち受けのままだった。
全く痛まない右足首に触れる。しっかりと施されたテーピングが去年の事をあたしに思い出させた。
階段で、後ろから押されて、足首捻って。それでも応援合戦に出るって言ったら、先生は駄目と言いながらも痛まないようにテーピングをしてくれて。
うわ、懐かしい。あの頃から、あたしは先生に頼ってばっかりなんだよなぁ、とか、思ったりして。

「…う、わっ…」

いきなり震え出す携帯にビックリしてしまった。感傷に浸ってたのに一体誰だ、と悪態付きながらもディスプレイを再度確認する。
新着メール一件、の文字が輝いて見えた。
すぐに内容を見る。絵文字も何も無い一言に、なぜか笑えてしまった。


無理するな。なんて、なんだか先生らしくない、よ。

(2010/09/23)
(2019/09/04 再編集)