同棲、八十二日目。
「ふっっっかあああああつううう!!」
「あーはいはい、良かったわね」
発熱し、一週間寝込んでその翌日、あたしは見事学校に復活する事が出来た。だがしかし、妙や神楽の反応は薄い。薄いというか、あっさりというか、薄味のポテトチップスをもっと薄味にしたような、そんな感じだ。
「え、なんでそんなあっさりとした反応なわけ?」
「一昨日から銀ちゃんの元気が無いアル」
「銀八の? なんで?」
「あなたのせいでしょうっ!?」
教室にある掃除用具入れのロッカーがガタガタッと揺れた。言わずもがな、中に入っているのはさっちゃんなんだけど、あえてつっこまないでおく。
というか、あたしのせいってどういうことだよ全く。
「猿飛さんがね、先生に聞いたんですって」
「銀八に?」
「いいえ、野邊先生に」
あの人の名前が出て来た瞬間に、少しドキッとしてしまった。また次の手をうってきたのだろうか、と一瞬焦る。
「詳しい内容は教えてくれなかったみたいなんだけど、名前のせいだって言ってたらしいわ」
「いやいや、無い無い。だって、あたし家に居たわけだし。銀八と会ってないし。学校来てないし」
「だからおかしいのよ。猿飛さんは一人で盛り上がるし」
「銀ちゃんは一人テンション低いし、やってらんないアル」
「……で、皆、何やってんの?」
いつもの朝の時間なら騒がしいはずの教室内は異様に静かで、何やら皆が机に向かってぶつぶつと呟いているような気もしなくもない。
知ってるはずのクラスが、知らないクラスになったような錯覚がした。
「何って、…何言ってるの名前。テスト勉強に決まってるでしょう?」
「………え、」
「大学への推薦もらうなら期末試験が要だからな。…志村、ここの問題なんだが」
「トシ…」
「ここなら、西郷先生に聞いたけど、テストに関係無いって言ってたわよ」
「そうか、サンキューな」
え、え、えっ…!? 何これ何これっ。あの神楽も机にかじりついて教科書と睨み合ってるし、皆真剣に勉強してるって言うかなんで受験生みたいな事してるの!? いや、受験生だけど!
「ほら、さっさと席着け」
「いたっ」
頭に激痛。いや、それほど痛くはないけど、振り向けばいつも通りの食わえタバコをした銀八が出席簿をあたしの頭の上に置いていた。
とりあえず席に着けば、テスト前につき現国の授業は自習にするらしい。自習と言っても、あたしはテスト範囲なんて把握していないし、期末テストなんてまだまだ先だと思い込んでいたので何も準備していない。
というか、現国ってなにを勉強すれば良いの。本当にわかんないんですけど。
「…名前、」
「んー?」
名前を呼ばれたので返事をすれば、あたしの席近くまでいつの間にかやって来ていた銀八が、いつも通りの死んだ魚のような目であたしを見ていた。……え、あたし、何かした?
「お前、今日放課後残っとけよ」
「え、なんで?」
「三者面談。お前だけ早めにやるんだと」
「はぁっ? 三者面談って期末テストが終わってからなんじゃ…!」
「文句はどっかの誰かさんに言うんだな」
銀八の言うどっかの誰かさんとは、恐らく先生の事だと思うが、なんでいきなりなんだろう。昨日は何も言ってなかったし、あたしの知らない間に何かあったのだろうか。
教科書を机に広げながらもんもんと考えていたからか、トシが珍しいな、と言いながら空席になっていたあたしの隣の席に腰掛けた。
「名前がちゃんと勉強してるなんて」
「えっ、あ、…う、うん。あたしだって自主的に勉強くらいするって」
「ははっ。本当にしてたのか疑わしい反応だな」
本当は勉強のべの字も頭に無かったが、一応体裁を見繕っておいた。そして、トシにテスト範囲やらを聞けば、自分が授業を聞いてなさ過ぎたことに脱帽してしまう。
まぁ、休んでいた時期だし、先生の事で悩みに悩み抜いていた時だったし。これは仕方ないと思いたい。
おかしいな。ついこの間まで6月だったのに、もう7月に入ろうとしてるんだから。時間の流れって早い。
「あの、さ…」
「なにー?」
「また、俺ん家でテスト勉強するとかどうだ?」
「良いね! あ、でも妙とゴリラ、神楽と総悟は一緒にしない方が…」
「…あぁ、いや、だから、俺とお前で」
「え…?」
海外のお母さん、お父さん。あと死んだ犬のケロイド。
本格的に夏に入りだした今日この頃、また一波乱がやって来そうな予感がします。
嵐の前の静けさって、こういう事?
(2011/06/19)
(2019/09/05 再編集)