同棲、八十五日目。
青い海! 白い砂浜! 憎い紫外線を撒き散らす太陽とブルースカイ!!
「……そして馬鹿三人ってとこだな」
「先生、勝手にあたしのモノローグに入って来ないで下さい」
車から降りたあたしと先生の目に映るのは、銀八、ゴリラ、桂の馬鹿三人。四つん這いになって吐き気を必死に堪えている。
今回もカーチェイスの勝者は先生のようだ。
「キャッホー!! 海アル! 名前! 早く泳ぎに行くアル!」
「神楽、先に荷物を運ばなきゃ…って聞いてないか」
終業式も一昨日終わり、待ちに待ったと言うべきか何とも表現しがたい勉強合宿が始まった。
今回の参加者で女子はあたしと神楽のみ。妙も来るはずだったけど、家の事情で今回は参加しなかった。さっちゃんに物凄く睨まれた記憶は新しい記憶だ。
男子はいつもの風紀委員四人と、期末で点数の低かったヅラが強制参加となっている。ヅラと風紀委員メンバーはよくいがみ合ってるから、色々心配な面があるけれど、今の所大丈夫そうで安心した。いや、本当に。
何か問題が起こって先生がマジギレしてもあたしは止めれないからね!
「名前ー、神楽の荷物も代わりに運んどいてやってくれ」
「無理」
「はぁ? お前友達だろ? それぐらいやってやれよ。銀さんからの、オ、ネ、ガ、イ」
「神楽の荷物はでっかいリュックサックだよ? そんな重い荷物をか弱い女子に持たせるんだ。銀八ってそんな薄情無しだったんだ。シ、ネ」
「先生に向かって死ねは無いだろ死ねは!」
「まぁまぁ、坂田先生。ここは拙者に任せてもらえんだろうか?」
一瞬の間。
サングラスをかけて口元はニッコリと微笑む人物――もとい、河上先生を見るなり銀八は目を点にした。
「…………お前、居たの?」
可哀相な河上先生。この物語は担当の話が終わったらすぐに存在を無くされるんだよね。阿音と百音は元気にしてるかなぁ。
「拙者が皆の荷物を運んでおくから、苗字さんも遊んで来ると良いでござる」
「え、いや、でも…」
「もう皆海へ走って行ったようだが?」
「えっ!」
辺りを見回す。河上先生の言う通り、周りには誰も居なかった。今まで此処に居たはずの銀八でさえも、服の下に水着を着ていたようで、道に脱ぎ散らかしながら逃げるように走っている。
神楽と銀八はこの際どうでも良いとして、まさかトシまでもがはしゃいで海へ行ってるなんて思わなかったんだけど、土の上の足跡を見る限り引きずられて行ったようだ。
……気になるのはエリザベス的な足跡があることなんだけど、エリーって車乗ってなかった……よね?
「ほら、ガキはさっさと行ってこい」
荷物を運ぶ高杉先生が別荘の中から声を掛けてきた。少し派手めのワイシャツを羽織ったその下は、よく見れば穿いていたジーパンでは無くズボンタイプの水着だった。
というか、この間水着を買いに付き合わせたお礼にあたしが選んだ水着、だ。……あれ、なにこれ超恥ずかしい…!
「晋助が水着姿になるとは珍しい」
「うるせーな。万斉、おめーもあの馬鹿共に混ざりたいなら早く荷物を運ぶ事だな」
「手厳しいでござるな。拙者があの馬鹿共――失敬。生徒達の荷物全て運んでるんでござるよ? 少しは手伝うという心遣いは」
「するわけ無ェだろ。俺ァそこの馬鹿の荷物も運んだんだ」
「ばっ、馬鹿とはなんですか! 馬鹿とは!……って、え? あ…」
ふと先生の車の空いたままのトランクを見れば、神楽のでかいリュックと銀八の借りたワゴンに入らなかった男子組の荷物しか入っていない。
あたしのお気に入りのキャリーを含め、先生の荷物は既に別荘の中へと運んでいるようだ。
「……行動が些か早すぎやしないか?」
「折角の海だと騒いだのはおめーだぞ、万斉」
「そうでござるが…」
カーチェイスに勝ったからか、普段より機嫌の良い高杉先生は、別荘から出て来るなり河上先生へ何かの鍵を投げ渡したようだ。
その手で私の手首を掴み、海に向かって歩き出す。
「戸締まり忘れンじゃねェぞ」
先生に引っ張られながら振り返れば、呆然と立ち尽くす河上先生の姿が見えた。
えっと、とりあえず、心の中で悪いけど、合掌。
ぎゃーぎゃーと騒ぎ声のするビーチに到着すれば、ヅラが目隠しをしてスイカ割りを一人で楽しんでる姿が目に入った。
なんで一人なんだろうという疑問よりも先に、ヅラの足元に目がいってしまう。ダイビングで使うであろうフィンを履いていた。さっきのエリーのような足跡はこれだったのか、と少し安心。
でも黄色。エリーの足と同じ色。これはもう深く追求しちゃいけないような気がするのでもう気にしない。
いつの間にか先生の手が離れたと思ったら、少し離れた場所に銀八が立てたらしい、パラソル下のビーチチェアーに我が物顔で腰掛けていて、銀八と口喧嘩しているようだ。
握られていた手首が少し寂しい。…なんて、ね。
「あー! 名前ー!!」
水着になり、何処からか持って来たバレーボールを持った神楽が走って来る。そして、その後ろからは怠そうにトシやら総悟達やらが歩いてきた。
「水着に着替えたらビーチバレーするアル!」
「それは良いけど……着替えるとこってどこにあるの?」
「あっち」
「…………はい?」
神楽が即答して指を点したのは少し大きめの岩場の影だった。
いやいやいや、と首を大きく振ってもう一度聞く。
やっぱり、岩場の方を示された。
「お前だって中に着て来てんだろィ? 別に気にする事…」
「総悟。名前だって一応女子の端くれなんだ。恥じらいくらいあるだろう」
「おいゴリラ。一応ってなんだ。妙が居ないからって好き勝手すんなよコノヤロー」
神楽に待ってるヨ、と言われ、仕方なく岩場の影に隠れて水着になることにした。
注意事項で水着を着て来る事、なんて書かれていた意味を理解しつつ、シャツを脱ごうと手を掛ける。
ふと、視線を感じてその方向を見れば、何とも例えがたい体制をした銀八が居た。
「…………え、」
「……あ。………ドモ」
「…何してんの銀八」
「何って……昼寝?」
「そっかぁ、昼寝かぁ。そんな無理な体制でよく寝れるねー」
「いや、俺実を言えばこういう体制の方が寝やすいんだな、これが」
「へー、そうなんだー…………」
「………」
「……」
「…」
「銀八、今すぐ謝って神楽に殴られるか、高杉先生に海の藻屑にされるか…好きな方選んで良いよ。一秒以内に」
「えっ、ちょ…待っ」
「はい終わりー。ぎゃあああああああ!! 高杉先生えええええ!!」
「名前ちゃんお願い覗きしたの謝るからそれだけは止めてええええええええ!!」
駆け付けたトシと先生に無言で蹴られる銀八を横目に、シャツと短パンを脱いで水着になる。去年も着ていたパーカーを羽織れば、あたしの水着スタイルの完成だ。
銀八を砂に埋めてる最中の先生が、ふと、こちらを見た。そして、一瞬目を見開いた後に、口を開く。
「……胸、無ェな」
「はぁ!?」
いやいやいや、ここは似合うなとか言うべきところじゃないんですかスタイル悪いことなんてあたし自身理解してるんだからなチクショー。
先生は何も見ていない、と。何も無かったかのようにまた銀八を埋め始めてるし、なんなんだ、もう。
なんだか虚しくなったので、早く神楽の元へと行こうと砂浜を一人で歩く。ぎゅ、ぎゅ、と少し音が鳴った。
「おじょーサン。一人? 良かったら俺と遊ばない?」
「遊びませ、…ん……」
ここは私有地だと、銀八が去年言っていた気がする。だから、このビーチに部外者が居るわけないから、ナンパをしてくる人なんて居るはずが無い。なのに、なんで――、
「なんで此処に神威さんが…!!?」
「やっ。遊びに来ちゃった」
一波乱ありそうな夏合宿の始まり。
(2011/09/26)
(2019/09/05 再編集)