Zet at zeT








「あれ? 珍しいですね、団長がこんなとこに居るなんて」
「俺だって食べ物には一応こだわってるからね」

仕事のために木天蓼星に停泊し、様々な売買を行っている団員もいる中、休暇を貰った私は一人で観光を楽しんでいた。ご飯時になり、お腹が空いたので適当に近くのお店に入るとメニューとにらめっこしている我が春雨第七師団の団長が居た。阿伏兎さんが一緒じゃないなんて珍しいこともあるようだ。

「…相席、良いですか?」
「もちろん。というか、名前が他の席に行こうとしてもここに座らせたけどね」

団長の対面に座った私は、じっくりとメニューを見た。私も夜兎なわけだから団長程ではないけど食べる量は多い方だ。ダイエットしなきゃとか、食べた分だけお金は飛んで行くから少しは節約しなきゃとか思うんだけど、出来ないのが現状だ。とりあえず安い料理を頼んで空腹を紛らわそう。量が少しでもありそうな安い料理を探すためにメニューに目を走らせれば、いつの間に呼んだのか店員が注文を聞きにやって来ていた。…猫だった。いや、木天蓼星だから仕方ないんだろうけど。

「メニューにある料理全部で。あ、デザートは食後で」
「かしこまりました」

さすが団長。メニューに書いてある料理全部だなんて太っ腹だなぁ。…って、おい!

「そんなに食べれるんですかっ?」
「食べれない事もないけど、名前も食べるんだし良いかなって。それに、一回メニューにあるの全部注文してみたかったんだ」
「してみたかったって…どこにそんなお金が…!」
「阿伏兎がお小遣くれたんだよね」
「お小遣って……一体何歳ですか…」

適当に笑ってあしらわれたが、足りなくなったら私の全宇宙で使えるカードで支払えば良いし良いんだけれど。運ばれてきた料理は、木天蓼星の旅行客用のお店だからか意外と普通だった。運ばれたらすぐに食べられる料理。周りのお客さんの目線が痛い。いや、私は普通に食べているはずだ。きっと団長を見てるんだ。だって食べるの早いし。

「…でもやっぱり、地球の料理が一番だな」

ある程度の料理を食べ終え、団長が一息ついてそう言った。私も様々な星の料理を食べたことはあるが、地球のが一番美味しかったような気がする。

「特に江戸の料理が好きなんですよね」
「さすが名前。俺の趣味わかってるね」
「何回も聞きましたから」
「帰ったら作ってよ」
「江戸の料理ですか? あんな難しいの無理です」
「難しいの?」
「難しいんですっ」

江戸から帰った際に一度、阿伏兎さんに頼まれて作ったことがあったけれど、とても口の中に入れるものじゃなかった。調味料に順番があるのは知っているけど、日本の連中は凝り過ぎだと思う。他の地方じゃワインを丸ごと一瓶入れたりしてたのに。

「あ、デザート来たよ」

店員が運んできたデザートも、今まで運んできた料理よりかは少ないものの、普通の人が見たら吐くんじゃないかと思うくらいの量だった。団長はニコニコとまた笑い出した。

「いただきます」
「団長…食べるの早過ぎですよ」

パフェの入っていたグラスが既に一つ空になっていた。そろそろお腹一杯になりそうなので私はパフェを一つだけ貰い食べることにした。デザートは別腹っていうけれど、団長の場合はいくつも胃があったら大変なんだろうな。

「あ、名前、ついてる」
「はい?」
「ここ、ついてる」

気付いたら頬に温かい感触がした。舐められたと分かったのは、団長が舌なめずりをしながら「ごちそうさま」と一言言ったからだった。顔が赤くなってくる。団長はいつも通りに笑っていた。

「なっ、なにしてるんですか!」
「なにって、舐めただけだよ」
「舐めただけって…!」

戸惑う私に団長は清々しい笑みを浮かべてデザートを全て食べ終えていた。対して、私の食べるパフェはまだ半分残っている。いくらなんでも食べるの早過ぎだと思ってしまった。

「まだなんだか食べ足りないなぁ…」
「このパフェは私が責任をもって全部食べますから、団長は我慢してください」
「だって名前食べるの遅いんだもん。俺が食べちゃうぞ」
「いや、あげませんから」

断固拒否すると、団長はより一層笑みを深めて私の両頬を両手で挟んだ。そのまま近づいてくる団長の微笑んだままの顔。それが怖くて、声が出なかった。

「じゃあ名前ごと食べちゃうぞ」
「なんでそうなるんですか!」
「だから名前ごと食べちゃうぞ」
「冗談ですよね?」
「食べちゃうぞ」


「食べちゃうぞが冗談に聞こえません…!」

(2010/01/24)