Zet at zeT









宇宙海賊春雨とか言ってるけど、所詮は大きな会社みたいなもので、星に停泊しない場合は書類処理などが多い。上から何か命令されない限り、暇だったり書類業務に追われたりまちまちだ。第七師団も例外ではなく、私は仕事をしない団長の代わりに今日も戦艦内を走り回っていた。たいていの物は自分で処理できるけれど、団長からの許可を貰わないといけない物もある。それらの書類を抱え、いつも通り気合いを入れて団長の部屋へと向かった。

「あれ?」

団長の部屋の近くまで来ると、阿伏兎さんが扉の前で右往左往している所に遭遇した。私に気がついた阿伏兎さんは近寄ってくるなり安堵した表情を浮かべた。

「どうかしたんですか? まさか、また団長が抜け出したとか…」
「いや、その逆。部屋から出てこないんだよね」
「えっ…!!?」
「何を言っても入ってくるなの一点張りでさ、こっちも迷惑してんの。ってことで、頼んでも良い?」

私に押し付けるわけではないんだと思いたかった。私が頷く前に阿伏兎さんは歩いて行ってしまった。さて、どうしようか。中の様子を扉越しに伺うに、いつも通りな感じはするんだけれど、扉に手をかければいつもとは違う団長の声が聞こえてきた。

「……誰、」
「だ、団長? 私です、名前です」
「…何か用?」
「いえ、あの、書類の確認などをしていただきたいんですけど…」
「あぁ。ならそこに置いといて」
「部屋の外に置いたら誰か持って行っちゃいますよね。中、入りますよ」
「来るなっ!」

開けようとすれば、なんだか鼻声のような、掠れたような団長の怒鳴り声がした。一瞬驚いたけれど、声の後にひどい咳が聞こえたから気がつけば私は扉を開けていた。部屋の中央に寝転がった団長と目が合った。団長の頬は赤くて、目は血走っている様にも見え、咳はタンが絡まったような咳だった。

「…来るなって言っただろう」
「団長、まさか、風邪…ひいたんですか?」
「違うよ。ただの体調不良なだ、け  

団長が言い訳を言い終わる前に額同士をくっつけてみた。熱い。完全に熱あるし風邪ひいてるじゃないですか。そう言うと、団長は私が床に置いた書類を乱暴に奪ってそっぽを向いた。風邪なんかひいていないという無言の抵抗らしい。ごほごほ。私に背を向けて書類を見ながら咳をする団長に違和感を覚えて、咄嗟に団長の手にある書類の束を奪ってごみ箱に捨てた。

「なっ、にして…!!」
「こんな紙切れよりも、私は団長の体調が心配だって事です」

弱った団長を布団に寝かすのは簡単だった。急いで医務室に行き、薬やらを準備して部屋に戻ると、団長は荒い呼吸をしながらも眠っているようだ。私が部屋を離れてからそんなに時間は経っていないはずだけど、それほどしんどかったんだろう、無理して元気に振る舞うよりも誰にもうつさないように部屋に閉じこもる選択をした団長の気持ちが少し分かった気がした。医務室から持って来た江戸で風邪をひいた時によく使われるらしい熱さまシートを団長の額に貼る。

「…団長、早く風邪、治してくださいね」

言い残して、ごみ箱に捨てた書類のしわを綺麗に伸ばして束ねた。それを抱え、部屋の電気を消した私は静かに団長の部屋を後にした。閉まりきった扉に寄り掛かれば、溜め息が出てきた。



団長が大人しいとなんだか寂しいですから早く風邪治して下さい。



後日、食事をとりに部屋から出れば、タイミングよく風邪を治した団長と遭遇した。にこにこと団長が微笑んでるのを見るのが久しぶりだったからか、私の顔もいつの間にか微笑んでいた。

「もう大丈夫なんですか?」
「まあね。さっき阿伏兎に怒られたよ、団長なんだから体調不良になるのは言語道断だって。ひどいよな、俺、病み上がりなのに」
「阿伏兎さんも心配してたんですよ? 迷惑をかけたんだから、怒られるのは仕方ないです」
「ちぇー」

いつもの団長だった。それがなぜか嬉しかった。寝込んでいる団長の代わりに私と阿伏兎さんが仕事を請け負ったりしていたのに、元気な団長を見ただけでそれをチャラにしてしまうくらい嬉しくなるだなんて、私も現金な奴だなぁと思った。

「名前、」
「はい?」
「…ありがとう」
「えっ、と…なにがですか?」
「阿伏兎から聞いたよ。代わりに仕事やってくれてたんだろ?」
「別に、それくらいどうってことありませんよ。団長の元気な姿を見れただけで、私は嬉しいですから」
「うん、俺も名前とスキンシップ出来ないと思ったから嬉しいよ」
「…って、なに胸を揉んでるんですか!」
「俺に早く元気になってほしかったんだろ?」
「そんなこと思ってません…!」

胸にあった団長の手を振り払って先に一人で歩く。つい最近まではあんなに弱ってて大人しかったのに、元気になったらなったでまたこうなってしまうなんて、看病なんかしなかったら良かった。


(看病の時、少しだけ好感度が増したのに……気のせいでした!!)

(2010/01/27)