Zet at zeT









例の独裁的な鬼ごっこで団長に捕まってしまった私は、二日後部屋に来ることをまず命令された。言うことを聞くのって今日一日だけじゃないのかよ、と内心愚痴りながらも部屋に戻った。何をする気なんだろうあの団長は。気になって仕方がないので、阿伏兎さんに聞いてみようと阿伏兎さんの部屋に向かうが、部屋に姿はなかった。ついさっきまで一緒に居たのにどこに行ったんだろうと船内を散策する。すれ違う団員に行き場を聞いても何も情報は得れなかった。
まだ団長と居るのかもしれない。阿伏兎さんには、裏切った罪を償ってもらう為に団長のスパイになってもらわなくちゃいけない。考えながら歩いていると、普段通らない廊下を歩いていた事に気が付いた。

「こんなとこあった…?」

船内の地図は頭の中に入っているはずなのにどことも一致しない場所を歩いているような気がした。誰も通らないからここが何処なのかを聞くことも出来ない。しばらく歩いていると、微かながら話し声が聞こえてきた。誰か居ることに嬉しく思えた私はそれを頼りに走り出していた。着いたのは、見たことのない扉がある場所だった。

「何の部屋なんだろう…」

扉は僅かながら開いていて、声はそこから漏れているようだった。声は二人分。聞くに、きっと団長と阿伏兎さんだ。開いている隙間を覗いて状況把握のために室内を確認すれば、やっぱり団長と阿伏兎さんが何かを言い合っているようだった。耳を澄ませてて何を言っているかを聞いてみる。それは止めた方が良いんじゃないか? 阿伏兎さんの声が聞こえた。おもいきって扉の隙間をもう少し開けてみる。見えたのは、ふりふりのフリルが満遍なく縫い付けられた服だった。

「だってさ、このメイド服のほうが名前に似合うと思うんだけど」
「いや、それよりも、こっちの方が…」
「え!? お前ってそんな趣味だったの!?」

阿伏兎さんの持っている服は、今私の着ているのとあまり変わらないチャイナ服だった。でも、なんだか、丈が短いような気もする。というか、部屋全体を見回してみれば、気持ち悪くなるくらいにマニアックな服で部屋は埋めつくされていた。思わず扉を開けて部屋に入ってしまった。私の登場に驚く団長と阿伏兎さんだが、私は四角い部屋全体がクローゼットになっていることに驚いた。

「なんなんですかこれ!!」
「なにって、服?」
「服なのはわかってます! どうしてこんなに…!」

あっけらかんとした様子で答える団長に私は呆れてしまった。それに、ハンガーに掛けてある服をじっくり見てみると、私のクローゼットにある服とサイズが同じような気もしてきた。いや、きっと勘違いだ。そう思いたかった。

「苗字に似合うと思って、各星の伝統衣装とか、色々集めてたんだよね。でも、やっぱり江戸が一番種類が豊富でさ。見てよこれ、メイド服。他にも色んな種類があるから前に江戸に行った時に大量買いしておいたんだ。それから、最近はネット販売ってのもあるし、日々新しい衣装が追加されてるからどんどん増えていっちゃってさ。あ、全部名前にピッタリだと思うよ。ってことでさ、俺からのお願い。二日後の予定だったけどまあいいや。このメイド服着て、俺の事をこれからご主人様って呼ぶこと。いい?」
「絶っっっ対、嫌ですっ!!!!」

メイド服を奪って破り捨てる。ついでに阿服兎さんの持っていたチャイナ服も容赦無く破った。掛けてある服を取っては破り、取っては破りを繰り返す。何着あるんだ一体。最近、経理の計算が合わないなと思っていたらこういうことだったのか。ちくしょう、気がつかなかった。服を破っていく度に団長の面白がっているような制止の声が聞こえてくる。それでも私は手を止めるつもりはない。警察官、ウェイトレスにバニーガール。セーラー服に、チアガール。マニアックすぎてわからない服まであった。


「何なんですかそのコレクションの多さ!!」

(2010/02/04)