Zet at zeT










「ふ、布団から出て行ってください!」
「やだ。寒い」
「半裸だからでしょうが! 団長が布団から出ないなら私が出ますっ」
「だめ。名前が風邪ひいたら困る」
「もうお昼なんで大丈夫ですっ。それに、ラブホテルって時間決まってるんですよね!? 延長料金とられますよ…!?」
「大丈夫、金ならあるから。だからゆっくり寝ときなよ」
「あぁもう! わかりました、わかりましたから服を着てください…!」

団長の駄々っ子は加速していた。私が帰ろうと布団から出ようとするも腰をがっちり拘束、いや、腰に抱き着かれているから身動き出来ないし、団長は布団から出る気も無いし、とりあえず服を着るように話してみたら笑顔が一層濃いものになった。

「あんな血だらけの服、着たくない」
「血だらけって、何言って  
「お仕事だよ、オシゴト。名前のだーい好きなデスクワークじゃなく、実戦の、ね」

ニヒルに微笑んだ団長の言っている意味が理解できなかった。だって、江戸には慰安旅行だって昨夜、団長自身が言ったんだ。仕事じゃないって言っていた。でも、実戦の仕事と言ったら一つしかないわけで。

「…本当に、仕事だったんですか……?」
「阿伏兎から名前に言うなって言われてたんだけどねー」
「な、なんでっ…!」
「いや、阿伏兎が来たら完全に仕事だってわかっちゃうじゃん」
「団長、話が繋がってません!」
「だから、前、鳳仙の旦那の時、名前がかなり江戸に来るの楽しみにしてたじゃん。でも、観光とか出来なくて、結局、闘って負傷して帰っただろ?」
「はい、まあ…」
「で、名前に観光させてあげたいって江戸に仕事に来る度に思って」

ちょっと待て。仕事に来る度って、私は何回も江戸に仕事に行ったなんて聞いていない。関連の書類も見ていないし、団内でそういう話題も無かった。じゃあ、今まで団長が無断外出で江戸に行っていたと思っていたのは私だけで、本当は、仕事しに江戸に行っていたって事で、それを教えてもらえなかった私は部下として役立たずな訳で  

「名前、なんか変な事考えてるでしょ」
「考えてなんて…」
「仕事しに行ってたことを教えなかったのは謝る。でも、名前は仕事に行くってなったら絶対ついて来るだろ」
「あ、当たり前です…!」
「俺はね、名前を危険なめに遭わせたくないから阿伏兎にも、他の奴にも黙っとくように言ったんだ」

お互い起き上がり、向かい合わせになって私の肩をがっしりと掴みながら真剣な表情で話してくる団長。嘘を言っているとは思えなかった。話によると、今日の仕事で上から請け負ったものは最後だったので私を連れて来たんだそうだ。元から世話好きなのかどうかもわからないけど、昔、団長に拾われた時も駄々をこねる私に何かと構ってくれていたような気がする。わかりました。私は一息置いて返事をした。

「観光、行きましょう」
「え?」
「江戸の案内を団長がしてくれるなら、…ですけど」
「わかった。仰せのままに」

日が傾き始めている頃に私達は準備をしてラブホテルを飛び出した。この時間から行く所なんてあるのだろうか。団長は考えがあるのか私の手を引っ張ってずんずんと道を歩いて行く。団長の背中って、こんなに大きかったのか。数多の戦場で助けられ、護ってもらった時に目の前に立つ背中を何度見たことだろう。それほど私が足手まといだったという事なんだけれど、団長はその事で私を責めはしなかったし、追放もしなかった。拾われた時から、私は団長の背中に、団長に護られていたんだ。それを実感すればするほど上司という立場の人にひどい無礼をしてきたものだ。今、深く反省しようと思う。

「着いたよ」

団長が歩を止めたので私も止めた。活気のある場所だと思った。どんな所なんだろうとワクワクした。だけどそのワクワクは第三者の声によって消し去られた。

「神威氏じゃないか、久しいでござるな。むっ、誰でござるかそのチャイニーズガールは!!」
「神威氏はリア充になってしまったナリか!?」

いつの間にか、似たような恰好をしている人達に囲まれていた。なんだか気持ちが悪い。団長に助けを求めれば、見たことの無い至福の笑顔で会話の中に入っていた。なにこれなにこれ。

「名前、ほら、これ着てみてよ」

話している男性から貰ったらしい服を広げて見せてくる。その服は、先日大量に破いた記憶のある服の中にあったようなデザインで、団長の表情はとても明るかった。普通の男の人のような、そんな表情だと思った。だから私は服を着ることを了承してしまった。団長は私が了承すると思っていなかったようで、一瞬の間の後、両手を上げ、団長かと疑ってしまうような喜び方をして似たような恰好をしている人達と喜びを分かち合っていた。…これが江戸で有名なオタク文化、というものなのだろうか。それに交じることが出来る団長に私の目は釘付けだった。


(……アレが輝いて見えるのは何故ですか)
  私は、団長に恋…してるのだろうか…。


(2010/02/13)