Zet at zeT








「白石くん、ちょっと相談に乗ってほしいんやけど…」

この一言が、俺の高校生活のターニングポイントやった。
高二の春、新しいクラスになり、そのクラスにも慣れてきた頃。クラスメートの苗字さんに話し掛けられた。苗字さんとは直接的な接点があった訳でも無いし、一年で同じクラスだった訳でもない。これは相談とか言いつつ告られるパターンなのかと予想してみれば、連れ出された廊下にはもう一人女の子が居た。この子、白石くんの事が好きやねん、っちゅーパターンの方やったか。俺もまだまだやな、と内心で自分を叱咤した。苗字さんは急かすようにその友達らしい女の子の背中を軽く叩く。女の子の方は少しうじうじしていた。

「早く言った方がすっきりするで」
「で…でも、名前ちゃん…」
「ほならうちが言うけど良いん?」
「……ん、…自分で、言う」
「じゃあ頑張り」
「うん。……あんな、白石くん、」
「なに?」

話がまとまったらしい。苗字さんに言われて女の子の方が口を開いた。

「あんな、…斉藤くんって、どんな女の子がタイプか知ってる?」
「は?」
「うち、斉藤くんのこと、好き、やねん…」
「斉藤って、あの、斉藤?」

教室の中を廊下側にある窓から覗き、斉藤の姿を捜した。野球部に所属しており、丸坊主で、少し焦げた肌と筋肉質な体の持ち主。明るく周りを笑わせることには努力を惜しまない斉藤は、俺の居るクラスのムードメーカー的な存在だ。もう一度、あの斉藤か聞いてみる。女の子はこくりと頷いた。

「せやな…斉藤は一緒におって楽しい子がタイプとか言ってた気ぃする。普通に話せて、尚且つ笑い合えたら十分やと思うで」
「ほんまに? ありがとう、白石くん! 名前ちゃんも、協力ありがとう!」
「ええって、気にせんといて。また次の休み時間な」
「うんっ」

笑顔になった女の子は、俺にもう一度お礼を言って自分のクラスに戻って行った。苗字さんが俺を呼んだのは本当に相談だったらしい。読み違えた自分を恥じた。

「…なぁ、白石くん」
「ん?」
「うちとコンビ組んでみぃひん?」
「は?」

いきなりの事だった。コンビ? なんでやねん。この時、俺はまだ、苗字さんの性格を完璧に理解出来ていなかった。

「よし、決定。二人でこの高校の恋愛問題を解決して行こ!」
「いや、ちょい待ち! なんやねんそれ」
「そんままの意味やで。んと、問題はコンビ名やな…。何にしよ…白石くんは何がいい?」
「せやからそうやなくて、なんで俺が苗字さんとコンビ組まなあかんねん」
「だって白石くん、恋愛経験豊富そうやん? うち、よく友達から恋愛相談されるんやけど、男の人しかわからんことってあるし…なら、クラスメートの男子で恋愛経験豊富な人と組んだら…ってので、脳内選挙した結果、白石くんが当選しましたーっ」
「ホンマか、嬉しいわー。って、んなわけあるか!」
「わお、ナイスなノリツッコミ!」
「褒められても嬉しないんやけど…」
「あ!」
「いきなりなんや」
「ペレストロイカ!」
「ソ連のゴルバチョフ政権の考えたスローガンがどうしてん」
「頭いいね、白石くん」
「パーフェクトやからな」
「パーフェクトやからか」
「…で、ペレストロイカがどうしたん?」
「恋愛ペレストロイカ隊ってどう?」
「なに、それ」
「恋愛立て直したい! 恋愛立て直し隊! 恋愛ペレストロイカ隊!」
「ただのダジャレやんっ」
「ってことで、これからよろしくな、相方」
「誰がいつ相方になってん…!」

俺のパーフェクトに過ごす予定やった残りの高校生活。二年目にして早くも挫折寸前。


(2010/02/11)