Zet at zeT








恋愛ペレストロイカ隊なるものが発足して二週間が経った。特に何も音沙汰は無い。俺はそれが逆に嬉しかった。無理矢理コンビ組まされた身としては、それを喜ぶほかないと思う。このまま何も起こらなければ良いとさえも思っていた。

「白石くん、白石くん!」
「……なんや?」
「朝からテンションひっくいなー」
「自分は朝からテンション高いな」
「褒めてくれるんや! ありがとう」
「いや、別に褒めたわけやない。…で、なんなん?」
「恋愛ペレストロイカ隊のいっちゃん最初の依頼が来たで! えっと、2年6組の匿名希望さんからのお便りです」
「ちょっと待て」
「なに?」
「お便りってなんや、お便りって」
「お便りはお便りやん」
「いつそんなん募集してん」
「昨日の放課後、下足室んとこに私書箱置いてん。さっき見たら投稿されとってうちもビックリしたわ」
「…さよか」
「じゃ、読むで?」
「ん」
「付き合って二年目になる彼氏が居ます。仲が良いと私は思ってたんですが、彼は最近えっ……」
「どしてん」
「えっ、えっ…」
「なんや」
「えっちがしたいとぼやいてますどうしたら良いですか!」
「一息で言わんでもええやん…」
「うーわー!」
「今度はなんや」
「依頼第一号がこんな卑猥なん嫌やー!」
「高校生らしい悩みやん」
「よりによって、えっ、えっ…」
「えっち。別の言い方やとセックスやな」
「はっきり言わんといて! 白石くんってそういうキャラって知らんかった!」
「俺かて、苗字がそんなキャラとは知らんかったわ」
「うわ、つい最近までは苗字さんって呼んでくれとったのに! なんなんその心変わりの早さ!」
「目立つタイプでも無く、おしとやかな感じが気に入っとったんに」
「え、白石くん、うちのこと好きやったん? マジでか」
「こないにアホとは思わんかった」
「うちアホちゃうもん。勉強出来るもん」
「さよか」
「で、話戻るで?」
「どーぞ」
「この匿名希望さんの相談は、要するに彼氏がいきなり迫って来て困ってるってやつや」
「それくらい内容聞いたら誰だってわかるやろ」
「男の子からしたらどうなん?」
「なにが?」
「やから、その、えっ、えっ…」
「えっちしたくなるかって?」
「まぁ、そゆことやな」
「そりゃあ、性欲ゆうたら人間の三大欲求の一つやし、高校生っちゅーのは青春真っ盛りやろ。当たり前やん」
「わからんわ…」
「男子はしょっちゅうオナニーする奴もおるしな」
「また出た卑猥用語!」
「なんやねんそれ」
「白石くんから卑猥な言葉がこんなに出るとは…」
「ちなみに、俺も男やさかいシたい欲求に駆られることもあんで」
「白石くんのイメージ壊したくないから今のはカットな、カット」
「誰に言うてんねん」
「…で、」
「なん?」
「結果的にどうしたらええ?」
「なにが?」
「匿名希望さんはそんな彼氏にどう接すればええか悩んでんねん」
「そんなん簡単や」
「どうするん?」
「自分の気持ちをそのまま彼氏に伝えればええっちゅーことや」
「気持ち?」
「せや。匿名希望さんがえっちしたいんやったらそのまま彼氏に身を任せればええ話や。嫌ならそれを伝えればええ」
「でもそれで、なんでやーっ!…って感じで彼氏が逆上して、喧嘩して、別れてしもたらどうするん?」
「肝っ玉のちっさい男やったっつーので、納得するしかないやろな。ま、彼女が大事なんやったらそこで諦めるんが普通やろうけど」
「なるほど」
「えっちは愛情表現や。お互いの同意無しにヤってしもても残るんは虚無感と罪悪感と射精感だけや」
「なんか最後のいらんくない?」
「そうか?」
「ん、まぁええわ、聞き流しとく。ほな、返事書いて6組に持って行ってくるわ」
「待ちぃ」
「なに?」
「直接渡したら匿名の意味無いやろ」
「あ、ホンマや」
「やっぱ苗字アホや」
「アホちゃうもん! アホ言った方がアホやねん!」
「いや、アホって言い返した方がアホや」
「ちゃうし。言い返しに対してアホ言うた方がホンマのアホやねん」
「アホ」
「アホ」
「アホ」
「アホ」
「なら、馬鹿」
「馬鹿ちゃうわ! 馬鹿は白石くんの方やろ馬鹿!」
「馬鹿言うた方が馬鹿や」
「自分かて今言った!」
「アホ。これは馬鹿でアホな苗字に説明するために言うたんや」
「馬鹿」
「馬鹿」
「馬鹿」
「馬鹿」
「……なぁ、白石、苗字。もう授業始まってるんやし、はよ言い合い止めなあの先生泣いてまうで?」
「アホ」
「アホ」
「むっ。白石くんのばーかばーかあーほまぬけーお前の母ちゃんでーべーそ!」
「小学生かいな…」

嵐の前の静けさ。音沙汰の無かった二週間はそう呼ぶに相応しい期間だった。


(2010/02/14)