Zet at zeT








昼飯を食べ終わった昼休み。唯一同じ高校へと進学した謙也と廊下を歩いていると、また苗字が声をかけてきた。走ってくる姿はさながら陸上選手のようで、少し、いや、大分怖い。

「白石くん、白石くんっ」
「…なん?」
「また来たで任務! 朝とは違う子! 1年の子みたい!」

なんでそんな嬉しそうな顔すんねん。思わずツッコんでしまった。誰こいつ、と隣にいる謙也が変な顔した。例の同じクラスの苗字だと説明すると、ああ、と思い出したように謙也は自ら苗字に自己紹介をした。

「あの浪速のスピードスターの忍足くん?」
「俺の事知ってくれとったん?」
「部活の先輩が陸上部にスカウトしたいとか言っとってん。足速いんやろ?」
「まぁな」
「苗字、まさかやと思うけど、自分部活何入ってん?」
「陸上やで。中学から陸上部やったから」
「凄いな苗字さん」
「そんな事ないって、白石くんと忍足くんかてテニスずっと続けてるんやろ? おあいこや。あ、でも、今度1000メートル勝負しよ」
「ええで、今度な」
「ありがとう。…で、白石くん」
「なに」
「今回の任務、忍足くんにも助力願ってもええかな?」
「謙也がええならええんとちゃう?」
「任務って、…ああ、恋愛ペ、ペレなんとかっちゅーやつやろ?」
「恋愛ペレストロイカ隊やで」
「恋愛ペレシュチョロ…噛んでもうた」
「ペ、レ、ス、ト、ロ、イ、カ」
「ペ、レ、ス、ト、ロ、イ、カ、……恋愛ペレシュ…もうええわ!」
「忍足くん滑舌悪いなー」
「謙也、ええんか?」
「別にかまわんで。おもろそうやし」
「忍足くんめっちゃ空気読むやん」
「やろ〜?」
「で、任務っつーか、相談事はなんやねん」
「白石くんはKYやなKY」
「うっさい。はよせな昼休み終んで」
「あ、ホンマや。……えっとな、今回のは好きな人を前にしたら恥ずかしくなってなんも喋られへんっちゅーやつ」
「女の子は恥ずかしくなるタイプと積極的に話し掛けるタイプと2タイプあるわな」
「うちは前者やな」
「どこがやねん」
「白石くんひどっ」
「まぁまぁ、二人とも落ち着きぃや」
「……ごほん。えっと、男子は積極的なんと消極的なんどっちが好きなん?」
「そやなぁ…普通がええな」
「俺は積極的過ぎンのは嫌や。逆ナンする子とかも無理」
「はっきり言うんやね、白石くん」
「せやけど、消極的過ぎたら怖いイメージを持つ人もおるし、人それぞれやろ、やっぱ」
「なるほど。せやったら、消極的な子が話せるようになるにはどうすればええやろか」
「んー、そういうんは女子の方がわかりやすいやろ。苗字さんはそういうことあった?」
「該当する記憶が思い付かん…。委員会とか係りが一緒やったり、なんか接点があったら話しやすいとは思うんやけど……白石くんはどう思う?」
「せやなぁ…王道で、席近かったら消しゴム借りたりとかすればええんとちゃう?」
「ベタやな」
「実際中学ン時に実行した謙也に言われたぁないわ」
「恥ずかしい記憶思い出させんな…!」
「でも忍足くんはツンデレっぽいから意外とうけるんちゃうかな」
「俺がやったら?」
「白石くんは……うちやったら何か企んでるんやろな、ってなる」
「なんやねんそれ」
「あー、それわかるわ苗字さん」
「忍足くんさすがやね」
「やろ?」
「自分ら俺をいじめて楽しいんか?」
「いじめてるつもりはないで? どしたん白石くん。傷ついたん?」
「んなわけないやろ。ちゅーか話ズレとる」
「ホンマや! えっと、つまり、相手と何か接点を持つこと。これでええよね」
「まあ、そんなもんやな。後は友達に助けてもらうとか。あ、そういや、斉藤の事が気になってたあの子、どうなったん?」
「付き合ってんで」
「斉藤と?」
「めっちゃラブラブやで」
「斉藤って、あの野球部の、やんな?」
「せやで。あ、うち教室戻って返事書くから。忍足くんばいばい。白石くんはまた後でなー」

来た時と同じように綺麗なフォームで走り去っていく苗字を見送った後で謙也がぽつりと笑顔のまま呟いた。

「苗字さんっておもろいな。大人しそうやのに明るいし、陸上やってるとかギャップありすぎやわ」

いつもは謙也と意見が割れる事が多いが、今回は心底同意した俺が居た。ホンマ、ギャップありすぎて扱いに困るわ。


(2010/02/17)