Zet at zeT









「あ、忍足くん、おはよう。ついでに白石くんもおはよう」
「苗字さんっ、おはよう」
「ついでってなんや、ついでって」

朝練が終わり、謙也から苗字の事を相談されながら靴箱へと向かうと、苗字が設置した例の目安箱が置いてあるのが目に入り、そしてその箱の中を覗き込む苗字の姿もそこにあった。何してるか聞けば朝昼放課後と依頼が来てないか確認しているらしい。テスト前に一通来てから一週間が経っている。既にテストも終わり、苗字からしたらそろそろ依頼の一つや二つ来ても良いんじゃないか、ということらしい。

「ないっちゅー事は、この学校の生徒は悩みが無くて幸せやっちゅーこっちゃ」
「いやや」
「意味わからん」
「白石くん、恋愛には悩みが付き物や」
「それがどしてん」
「つまりや、白石、苗字さんはいずれ依頼が来るって言うてんねん」
「さすが忍足くん! 二番助手にしたら頭働くやん!」
「やろ〜。……ん? 二番? 俺、二番助手やったんや」
「一番助手は白石くんやもん」
「そか」
「でも白石くんはKYから、忍足くんを一番助手にしよか」
「KYとかもう流行らんで、苗字」
「ほら、KY」
「はぁ……もう俺教室行くわ。付き合うてられん」
「あ、白石くん…!?」
「謙也と恋愛ペレストロイカ隊再結成したらええやん。俺、抜ける」
「ちょ、白石くんっ…!」
「おいこら待たんかい白石!」

なんだかムカついた、いらついた。だから二人きりにしてやろうと俺だけ教室に向かったが、すぐに謙也が追い掛けていた。肩を掴まれ振り向かされる。謙也の眉間にシワの寄った顔が見えた。肩越しにハラハラしている苗字が見え、低い声色で名を呼ばれたので再度謙也を見た。一層険しい表情をしていた。

「……なんやねん」
「それはこっちのせりふや。なにキレとんねん」
「キレとらん」
「いきなり不機嫌になりやがって。どうしたん」
「…はよ苗字んとこ戻りぃや。心配しとるみたいやで」
「自分が不機嫌やからやろ」
「あー、はいはい、わかった、俺は不機嫌やない。これでええか?」
「白石お前ホンマどうしたん」
「どうもしてへん。もうチャイム鳴んで。ほなな」

謙也を振り切って教室に向かう。どうかしたかなんて自分でもわからんのに、謙也にどう説明せいっちゅーねん。謙也と苗字が仲良う喋ってんの見たらむしゃくしゃしてきた、なんて説明できるはずない。最悪や。意味わからん、なんやねん俺、カッコ悪。パーフェクトな高校生活を過ごすはずが、苗字に声を掛けられたことでどんどん路線から外れて行っていた。路線変更はしたない、やから、俺は元あった路線に再び乗ろうと思った。


(2010/02/23)