Zet at zeT









あのヘタレでメロスな謙也が苗字をデートに誘った。遊園地でジェットコースターに一緒に乗るんや、と前日にかかってきた電話で無駄にテンションが高かった謙也は、なんせ根がヘタレなもんで、デートが成功するのか心配した俺は謙也との電話が終わった後、すぐに数人に電話した。

「…で、なんで俺らなんすか」
「今日暇言うたんがこのメンバーやってん。しゃあないやん」
「ユウくんユウくん! ウッドペッカーと写真撮りた〜い」
「よっしゃ! 任しとき!」
「先輩、あの二人、勝手にはしゃいでますけど…」
「小春とユウジはもともとユニバに来るつもりやったらしい。夏休み近いし、昼間のパレード見るんやて」
「ふぅん。…あ、苗字さんってあれちゃいます?」
「でかした財前。なんやあいつ、時間ピッタリやん。しかも私服可愛いし。…ん? ちゃうで、今のは苗字を褒めたんやなくて苗字の着てる服を褒めたんや」
「なにぶつぶつ言うてんすか。あ、謙也さんも走って来たみたいや」
「待つのも早く来るんも嫌いやからピッタリに来るように頑張って走ったみたいやな」
「さっそくライドに向かってるみたいっす」
「ほんまか、行くで財前」
「え、めんど…。ちゅーか、あの二人…っておらんし」
「蔵リンに光ー! はよ来な見失うでー!」
「いきなり乗り気になったみたいやな、さっすが小春や。可愛い子には目が無いなぁ。ん? 苗字って可愛いんか? ん?」
「先輩なに独り言言ってんすか。置いてかれますよ」
「あっ、ちょお待ちぃや…!」

ユニバにある二つのジェットコースターを制覇した二人は、近くにあったレストランで食事を済ませ次はジョーズへ向かって行った。謙也にしてはなかなか良いアトラクション選びだと感心していると、偶然にも、俺らと二人は同じ船に乗ることとなった。俺らは一番後ろの座席だが、二人は真ん中の方でしかも水がかかる奥に謙也が座っていた。その隣はもちろん苗字なのだが、はしゃぐ謙也に比べてそんなにテンション上がっているようには思えなかった。

「蔵リン、蔵リン」
「なんや?」
「はい、これ」
「かつらとサングラス?」
「変装グッズ。普通の黒髪かつらやから蔵リンに似合うと思う」
「それでなんで小春は女装してるん?」
「嫌やわ〜、女装も立派な変装やで」
「せやな…って、このかつらロングやん!」
「光クンも女装やで」
「もう帰りたい…」
「小春ー、めっちゃ可愛いで〜!」
「しゃあない財前、男として心決めよう」
「嫌やー男として着たないー。ちゅーか、身長180越えした女見たくないー」
「うっさいな、自分も身長伸びて175くらいあるんやろ」
「ま、余裕っすわ」
「じゃあ今すぐかぶれ」
「あっ、ジョーズや」
「話そらすな!」
「いやーん、ユウくん倉庫の中暗いー」
「大丈夫や! 小春は俺が守ったる!」
「先輩らホンマきもいわ…」
「ちゅーか、ジョーズの水って汚いねんな。触ったらあかんで財前」
「言われても触りませんから大丈夫っすわ。うわっ、水つめたっ! なんやねんあの人、ちゃんとジョーズ狙えや」
「そういう設定やからしゃあないやん。つめたっ」
「そっち側の二人しか水かかってないやん。ジョーズ死なすど」
「いま死んだわ」

ジョーズを楽しんだ後、なんとかばれずにいると次はスパイダーマンに向かっているようだった。かつらを取った俺と財前はサングラスはかけたまま、小春は相変わらずの女装でユウジといちゃつきながら二人の後を尾行する。そしてもう少しでスパイダーマンの建物に近づいた時、ケバい女達に囲まれ、人込みに二人を見失ったのだった。


(2010/03/05)