Zet at zeT








苗字と謙也を見失ったまま閉館時間までユニバを楽しみ俺らはユニバを後にした。その夜、謙也からの報告を兼ねた長電話にさんざん付き合わされ、寝たのは午前1時過ぎ。中学の頃は聖書だとか健康マニアキャラを売りにしていたが、この際どうでも良くなった。
翌日、苗字は3時限目で早退した。謙也は昨日自分が疲れさせたのかと心配していたが、俺が見る限り、苗字のテンションはいつもと変わりなかったと思う。

「くーらリン」
「…小春か。どうかしたんか?」
「嫌やわ〜。校門で待ち合わせするんは放課後デートの基本やろ?」
「ユウジはどないしてん?」
「ユウくんは大事な任務を任せてるんよ」
「任務?」
「そ、任務。っちゅーわけで、ニケツしよ」

校門で俺を待っていたらしい小春を後ろの荷台に乗せ、チャリを漕ぎはじめた。ユウジの任務が何なのか小春は教えてくれなかったが、どこに向かうかだけは言ってきたのでその場所へとチャリを向かわす。小春が向かうように言ったのは、二年前まで俺や小春の通っていた四天宝寺中学だった。二年しか経っていないのにも関わらず、懐かしい校舎に耽っていると、これまた懐かしい声が聞こえてきた。

「白石に小春やないか。久しぶりやなぁ。なんや身長えらい伸びたな」
「オサムちゃんが縮んだんとちゃう? もう歳やろ」
「あほ。まだまだ現役やっちゅーねん」
「あー! 白石やーっ!!」
「金ちゃんか。懐かしいなぁ」
「いやーん、金太郎はんの身長が伸びてるーっ」
「にしし、白石を抜かすんももうすぐやでっ」
「堪忍な、金ちゃん。俺かて成長期終わってないんや。そう簡単に抜かされてたまるかいな」

久しぶりに再会した金太郎の身長は伸び、昨日会った財前と同じくらいだった。目線も以前は見下す感覚だったのが、今では少し下げるだけで金太郎の顔がそこにある。時代の流れは早いと思った。

「…で、急にどないしたんや? 見学か?」
「蔵リンが久々にテニスやりたいて言うたから連れて来てん」
「小春俺一言もっ…」
「さよか。なら部室で着替えてきぃ。よし金太郎、OBと今日は練習試合やっ」
「ホンマかオサムちゃん! よっしゃー! 白石と試合やぁー!!」

相変わらずテンションの高い金太郎とオヤジ臭いオサムちゃんが、今日の練習メニューの変更を部員に伝えるためにテニスコートの方まで向かって行った。校舎を見遣れば関西大会優勝の垂れ幕が立派に掲げられていた。

「……小春」
「なぁに?」
「俺を連れて来た理由は何なん?」
「んーっと、蔵リンはテニス好きやろ」
「当たり前やん」
「その好きって気持ちは嘘つかれへんのはわかる?」
「は?」
「好きなんやろ、苗字さんのこと」
「……いや、それはない」
「テニスが好き、けんけんも好き、苗字さんも好き。蔵リンは板挟みになってる」
「……」
「好きならはっきりせなあかん。自分の気持ちに嘘をつくことはでけへん」
「……」
「うちはそういうことを言いたかってん」

小春の発言が背中や頭にのしかかったようなそんな錯覚がした。俺が苗字を好きなわけない。好きになってはいけない。じゃあ、なんで二人のデートをつけててんやろうな? 小春がそう言った。なんで? そんなんわからん。言えば小春は女子のように笑った。

「蔵リンって意外と乙女やねんな」


(2010/03/19)