Zet at zeT








「…俺、苗字さんに避けられてるみたいやねん」

謙也が俺に相談してきたのは、小春に連れられて中学校に行った日の翌日だった。昼休みに食堂で謙也が切り出してきたのだが、避けられているという事実を確かめるには昨日早退してから今日も休んでいる苗字に聞きようも無い。俺は苗字と連絡先を交換していなかった。謙也は既に交換済みのようで、メールしても返信が全く無いらしい。俺はメールしてるという事実に対して多少のムカつきを覚えていた。

「どうすべきなんやろ…」
「俺に聞くんは待ちがってるんちゃうか?」
「せやけど白石〜…」
「きしょ」
「機嫌悪すぎやろ自分」
「悪ない」
「さよか」
「…そんなに好きなん?」
「おう」

自信に満ちた謙也の顔は俺を不服にすると共にこいつが友人で良かったと思わせた。小春は俺が苗字を好きだと言った。自分が苗字に特別な感情を持ち合わせてると考えたことも無ければ想像したことも無かったのだが、昨日から小春の一言が頭から離れない事が好きだと言うことの裏付けをしているんじゃないかと思った。

「あ、」
「なん?」
「苗字の友達や」
「あぁ、斉藤の」
「なぁなぁ、苗字が休んでる理由とか自分知ってる?」
「え? 名前ちゃん? 休んでるん?」
「自分も知らんかったんや」
「んー、多分、明後日まで学校来やんと思う」
「は?」
「なんで」
「えっと、あれ、あの、女の子やねん」
「苗字さんは元から女やん」
「そうやなくて…その…」
「アホやな謙也。苗字が女なんは当たり前やろ」
「名前ちゃん重いみたいやから、中学ん時も休んでたし、かなり機嫌悪なるからメールの返信とかも無いねん」
「そうなんや」
「えっ、ちょっ、俺よくわからんねんけど」
「時期的に間違いないと思う。昨日早退してた?」
「あー、確かに早退しとったわ」
「じゃあ確実やと思う。名前ちゃんに何か用やったん?」
「俺やないんやけど、こいつがどうしてんやろーって」
「えっと、忍足君、やんな? んっと、毎月の事やから。気にせんでも良いと思うよ」
「ん、わかった。…で、苗字さんはなんで休んでるん?」
「謙也……話の流れ的に察すること出来んのか自分は。もうええよ、わざわざすまんな。ありがとう」
「ううん、別に大丈夫やで」
「……無視すんな」
「女の子の居る前で話す話題やない」
「は?」
「ちょっとは考えることを覚えや」
「俺は俺なりに考えとるっちゅーねん」
「生理や」
「は?」
「苗字が休んでる理由」
「あ…」


(2010/03/27)