Zet at zeT








「……意味わからん」

苗字に告白されてから三日経った。チャイムに邪魔され、何も言わずに苗字は教室に戻って行き、残された俺も早退するために職員室に行ったのだが、苗字の事が頭から離れなかった。それは三日経った今でも変わらず、俺の頭は苗字の事ばかり考えていた。部活中もいつもならありえないミスをして監督に怒鳴られた。オサムちゃんとは全く違うタイプの監督はやりにくい。やや放任主義だったオサムちゃんが懐かしい。いや、これは中学が懐かしいんだろうか。苗字が俺に告白した事を知ったらしい謙也のよそよそしい態度が気に入らない。だが当の本人はというと、今日も学校に来ていて、テンションはいつもと変わらなかった。俺にも普通に話し掛けてくる。ただ、ペレストロイカ隊の話題は出さず、以前と同じ挨拶だけを交わす関係に戻ったようだった。意味わからん。もう一度呟けば、俺の呟きを聞いたらしい小春が近付いてきた。

「どないしたん? 蔵リン」
「いや、なんも…」
「いきなり中学に行こうて言うから、ウチもユウくんもビックリしたんやで?」
「こないだのお返しや」

俺が座るベンチの目の前にあるコートでは金太郎とユウジの試合がもう終わる頃だった。オサムちゃんがやって来て集合の合図を出し、ちょうど試合の終わった金太郎が全部員に集合やでー、とでかい声で伝えた。コートに突っ伏しているユウジに生きてるか確認しに行った小春に取り残された俺はじーっと成長した金太郎の背中を眺めていた。

「なんや悩んでんのか? 青春やな、青春」
「おっさん臭いでオサムちゃん」
「おっさん言うなって。…で、どうかしたんか?」

人の優しさに飢えていたのだろうか、すらすらと自分の今の感情、状態をオサムちゃんに話せば、一瞬、双眸を見開いた後、俺に向かって盛大に笑いだした。

「なっ、なんで笑うん…!?」
「ははははっ、悪い、悪いな…ははっ」
「笑いすぎやわ」
「はははは、はぁ〜…堪忍な白石。久しぶりに爆笑させてもらったわ」
「笑う要素なんて一つも無かったように思いますけど?」
「いやー、白石がこんなにまで鈍感で純情やとは思わんくてなぁ。おーい、小春ーっ」
「どないしたん、オサムちゃん」
「白石に教えたってくれ。苗字って子に恋してるってな」
「……は?」
「あーっ、まだ言ったらアカンって! それはまだ機が熟してからやないと…」
「俺が、苗字に、恋、してる……?」
「ほら、蔵リン頭テンパってしもたやん」
「ははは、四天宝寺の聖書が混乱してるわ〜はははは」
「なになにー? どうかしたんかーっ?」
「金太郎さんかて気付くよな、ユウくん」
「ん? お、おう…」
「青春やな、白石」
「……意味わからん」


(2010/04/19)