Zet at zeT










ペレストロイカとは、旧ソ連のゴルバチョフ政権が1986年以降推進した、改革政策のスローガンの一つで、再編、立て直しの意がある。…電子辞書に内蔵されている大辞泉にはそう書いてあった。立て直しとは、悪くなったものを元の状態に戻す時に多く使われる言葉だ。

恋愛とは、始まる前に終わってしまう事の方が多い。好きだと告白し、振られ、友人という関係さえも終わり、なにをどうやっても、それこそ立て直せれない事になってしまう。人の心というのは変わりやすく、そして、壊れやすい。だから一歩踏み出せずにいる。  俺も、昔はそうだった。

「白石くん? 何してんの?」
「いや、昔の事思い出しとった」
「昔?」
「どっかの誰かさんが恋愛ペレストロイカ隊っちゅー意味のわからんもんを作ったくらい前やな」
「恋愛ペレストロイカ隊?…なに、その意味わからんの」
「やんな。意味わからんよな」

空になった紙コップをテーブルに置き、読み掛けだった参考書を持って席を立とうとすれば話し掛けてきた女がもう行くん? と甘ったるい声で聞いてきた。これから用があんねん、とあからさまに相手に出来ない事を告げ、紙コップをごみ箱に捨てて学生ラウンジを出る。教授からの呼び出しも無い、久しぶりにある中休みだった。午後からは講義も実習も入っておらず、今日はゆっくりと帰宅して休もうと思う。帰宅準備をする為にロッカールームへと向かえば、すれ違い様ににしし、と笑う同じ学科に通う友人が話し掛けてきた。

「心理学科のあの子、もう待っとるみたいやで?」
「は? なんで自分が知ってんねん」
「有名やからな〜、あの子」
「惚れんなよ」
「惚れへんわ。…まぁ、なんにせよ、はよ行ったりや」
「…おう」

肩を軽く叩かれ、彼は次の講義に出るために去って行った。俺は白衣を自分のロッカーに掛け、明日の参考書数冊と、提出期限の迫ったレポートを鞄に突っ込みさっさとロッカールームを出た。待ち合わせ場所の掲示板前に行くと、高二の時から変わらない顔で笑った名前が俺に手を振っていた。


立て直し、完了。


(2010/05/02)