Zet at zeT









S-1GPの二回戦も無事に終わり、うちとけんけんは東京都にやって来ていた。例のどでかい文化祭を楽しむためだ。新幹線の中で銀さんと一緒に二回戦に落ちたけんけんの宿題をやってあげていたから、新幹線から下り吐き気のする身体に鞭を打って会場に向かえばやたらと多い人にア然とした。こんなに人気なのか。あ、吐きそう。

「白石はもんじゃ焼きんとこにおるらしい」
「もんじゃ焼き? つか、もんじゃ焼きとお好み焼きってどう違うん?」
「知らん」
「けんけん役立たずー」
「食ったこと無いし、知らんもんは知らんからしゃーないやろ」
「銀さん達は先に行ってもうたし、この人混みに混じるのは嫌やけど…行こか」
「せやな」

けんけんを連れてパンフレットを片手に蔵の居るらしいもんじゃ焼き屋に向かう。人が多くて、しかもこっちの人間は歩くのが遅くてうちが我慢できるかけんけんが心配してきた。正直言って今にもキレそうだ。蔵はよく東京モンに混じることが出来るなぁと感心した。もんじゃ焼き屋の周りは人でごった返していた。

「うわー…吐きそう」
「吐くなや」
「なんなんこれ。なんでこんな人気なん」
「俺が知るわけないやん」
「あ、お好み焼きもやってるみたい」
「ホンマか」
「あ、蔵や!」
「見つけんの早過ぎやろ」

テントの下でウェイターをしている蔵を見つけ、うちのテンションは上がった。声を掛けようと近付きたいのだが人の多さになかなか近づけないで居ると、蔵の近くに少し小柄な、でも年齢はさほど変わらないだろうと思われる女子生徒が居るのが分かった。制服を見ると、もんじゃ焼きを焼いているであろうオレンジ髪の男子生徒と同じ制服っぽいので、この店の店員か何かなんだろう。なぜか、一気に切なくなった。

「タコ焼き食べたい」
「は? いきなり過ぎるやろ」
「タコ焼き食べたい」
「そんな店あるわけ、……あったわ」
「今すぐ行こ」
「白石はどうすんねん」
「変態野郎なんかもう知らん」
「はあ? 意味わからんって、ちょ、待ちぃや…!」

氷帝学園のタコ焼き屋に向かえば経営していたのはけんけんの従兄弟だった。軽く挨拶を済ましてタコ焼きを食べる。本場の味だ。そういえば昔はよく蔵の家族と一緒にタコ焼きパーティーをしたな、なんて、思い出に耽っていると、けんけんがうちのタコ焼きを一個取りやがったので足をおもいっきり踏んでやった。

「…元気無いやん」
「は? けんけん意味わからーん」
「ごまかすな。どないしてん」
「……別に」
「謙也、女の子っちゅーのは壊れやすいんやで。もっと包み込むような包容力で…」
「うっざ。侑士うっざ」
「なっ…!」
「……なぁ、侑士くん」
「ん?」
「体が離れたら心も離れるんかな?」
「難しい質問やな」
「うちどないしよ…」
「お、謙也の従兄弟やん…って、なんで自分らがおんねん…!」

タコ焼きを食べながら話していれば、悩みの原因である蔵がさっき見た女の子と一緒に歩いてきた。それを見たうちはいてもたってもいられなくなって、タコ焼きの入っていた容器をぐしゃ、と潰し蔵の前に仁王立ちした。久しぶりやなぁ、とのんきに話す蔵にビンタを一発食らわせる。途端に周りはシーンと静まり返った。

「変態蔵ノ介の浮気者!!」

それだけ言って行く宛ても無く走り去る。蔵の隣に居た女の子は可愛かった。

(2010/03/28)