気がつけば自分がどこにいるのかわからなくなっていた。人一人居ない広場は、さっきまでの陽気なお祭りが幻だったのだとうちに言っているような気がした。ふと、頭に浮かんでくる蔵の驚いた表情と隣に居た女の子の笑顔。吐き気がした。鼻の奥がつーんとして今にも泣きそうだ。昼過ぎに到着したはずが、もう夕暮れだった。うちは一体ここに何しに来たんだ。携帯を見てみたが、けんけんからの連絡も、蔵からの連絡も無い。けんけんが居ないと今日泊まるホテルの場所がわからないので、自分から連絡するのは癪なのだが仕方ないので電話すればワンコールで出やがった。うわ、気持ち悪。
「けんけーん、ここどこー?」
「俺が知るか! っちゅーかお前ホンマどこにおんねん!」
「どこかわからんもーん」
「アホか!…って、泣いとんのか?」
「は? けんけん意味わからーん。つかワンコで出んなよキモい」
「キモい言うな」
「キモいキモい気持ち悪いー」
「うっさい。泣くんやったら強がっとらんで女らしく泣けや」
声は背後から聞こえた。おかしい。電話でけんけんと話してるはずなのに、どうして声が後ろから聞こえるんだ。振り返ればベンチに座り踏ん反り返るけんけんと目が合った。
「なん、で…」
「自分声デカすぎやねん」
「けんけんって無駄に男前やね」
「無駄は余計や」
電話を切ったけんけんが近付いてくる。かったるそうに、でも、真面目な顔だった。惚れんなよ。そう言われてうちの顔を自分の胸元に引き寄せたけんけんの心臓は大きくそして早く脈打っていた。誰がヘタレけんけんになんか惚れるかアホ。言い返せば頭を小突かれた。
「…強がんな」
「強がってなんかないし」
「泣きぃや」
「は?」
「泣きたいんやろ?」
「そんなこと、ないし…」
「我慢すんな。しても意味ないし、今泣いても誰もお前を責めたりせぇへん」
けんけんの言葉に笑いそうになった。反面、うちの目からは涙が流れて流れて、止まらなくなった。悔しかった。蔵を盗られたみたいで、嫌だった。怖かった。孤独を感じてしまった。だから、今の泣いている状態をけんけんに見届けられているのはちょっと恥ずかしく思えた。
「…何してんの、自分ら」
蔵の声が聞こえた。顔を上げれば、呆然と立ち尽くした蔵がうちらを見ていた。
(2010/04/16)