Zet at zeT









「……けんけん、どないしよ」
「俺が知るか。自業自得やろ」
「せやけど…」
「自分でなんとかするこっちゃ」

バタン、と部屋の扉が閉められる。けんけんの薄情者ー! と声を出しても扉が開けられる事はなかった。仕方なく自分の部屋に戻るが、もやもやは消えてくれない。むしろどんどん増加していく。ため息を吐いて、部屋に入り、ふかふかのベットにダイブした。もう一度、ため息。誰にも聞かれる事の無いため息は、ますますうちを追い詰めて行く。

「…蔵と、喧嘩したことないねん。どうすればええか、わからんねんもん……しゃあないやんかあああああ…!!」

可愛い、蔵の隣にいた女の子に自分が嫉妬してしまったのは事実だし、認めてもいるが、それは遊び道具を取られたような、そんな感じの嫉妬だ。蔵がちゃんと紹介してくれたらうちだって仲良くするし、するし……。

「仲良く、出来るんかなぁ、うち…」

またため息を吐いてしまった。あんな可愛い子が蔵の彼女か…ゆかりちゃん喜ぶな。お姉さんも、お母さんも喜ぶだろうな。そしたらうちは邪魔な存在になって、ゆかりちゃんもお姉ちゃんじゃなくて苗字にさん付けでうちのこと呼ぶようになるんだろうな。……うん、なんだか、  

「めっちゃ寂しいやんかああああああ!!」
「さっきからお前うっさいねん!」

部屋の、扉の外からけんけんの声がした。鼻水をすすりながら扉を開けると、こめかみ辺りに青筋を浮き上がらせたけんけんが腕を組んで立っていた。な、何事!?

「さっきからうっさいんじゃこのハゲ!!」
「っ、ハ、…ハゲちゃうし! 髪の毛生えてんのが見えてへんのかこのヘタレ童貞ひよこ!!」
「まだ中学生やねんから童貞でもええやないか…!」
「人に自分で何とかしろって言っときながらなんなんっ? からかいに来たんっ? 随分暇人なひよこやなぁ。お母さん捜したろかー?…うわ、っ、」

いつものからかい合いが、気がつけば視界は真っ黒で。何かに押さえ付けられているようだ。困惑していると、そのままうちの体は後退して行き、扉が閉まる音が聞こえた。多分、うちはけんけんに抱きしめられたまま自分の部屋に入ったんだろう。さっきと同じ芳香剤の匂いがした。

「……俺はあかんのか?」
「は…?」
「白石の代わりに、俺ではなられへんのか? お前の言うた通り、俺はモテへんし、白石には結構劣ってる部分もある。でも、お前を想う気持ちは  
「けんけん何言うてんの?」
「…頼むからムード壊すような発言だけは止め、」
「けんけんが蔵の代わりとか無理に等しいやろ。ちゅーか、無理無理。どんだけ背伸びしても蔵には届かんで」
「いや、やから人の話は最後まで、」
「けんけんは、モテへんし、テニスの腕も、勉強も、料理の腕も、字の綺麗さも、外見も、性格も、なにもかも、蔵に負けてる。蔵は、聖書やねん。八方美人やねん。そうやないと、あかんねんっ…」
「泣くなし」
「泣いてへんわ、阿呆っ…っ」
「阿呆言うな、阿呆」
「阿呆に阿呆言われたくないっ…!」
「……明日、仲直りせなあかんで」
「……ゔ、ん…っ」


(2010/09/12)