成長するに連れてみっちゃんはみっちゃんと呼ばれるのを嫌がった。あたしにはちゃんとした名前がある、と言うみっちゃんは、俺の中ではいつまでもみっちゃんや。中学生になってから家に居ることが少なくなったみっちゃんの帰りは、いつも21時を過ぎていた。中学生だからと言っても、夜遅くに帰ってくるんはいくらなんでもアカン。変質者に絡まれたらどうするんやろうか。鳴らない携帯のディスプレイを穴が開くほど見つめていると、玄関の鍵が開く音が聞こえた。
「みっちゃんっ…?」
「うわ、お兄ちゃん…おったんや。あ、えっと、この人同じクラスの若山くん」
急いでリビングから玄関に移動すれば、見たことの無い男がみっちゃんの隣におった。誰や、こいつ。やっぱり変質者に絡まれとるやん。みっちゃんは無用心やな、まぁ、そこが可愛いんやけど。
「みっちゃん、オカンが来週の誕生日ケーキどんなんがいいか考えとき、って言っとったで」
「…みっちゃん?」
「あー、若山くん、気にせんとって。はよ行こ」
みっちゃんは俺を無視して階段を上って行く。意味わからん。みっちゃんが俺から離れていく。立っている感覚が無い。俺は呆然と階段を上る二人を見つめていた。アカン、アカンでみっちゃん。そいつは変質者や。
(2010/04/18)