Zet at zeT









目が覚めると、見覚えの無い白い天井が視界一面に広がっていた。いや、見たことがあるのかさえわからない。考えることを拒否しているかのように、頭が割れるような頭痛がした。痛い、と声に出せば、タイミング良く開いたスライド式の扉から、見たことの無い高校生くらいの男の子が私の顔を見て双眸を見開いた。

「先輩っ…気ぃついたんすか!?」

先輩? 先輩って私の事、なんだろうな、きっと。高校生くらいの男の子は、抱えていた色とりどりの花が入れられている花瓶をサイドテーブルに置き、近くにあったパイプ椅子に腰掛け、テーブルに元からあった電話のボタンを押した。どうしました? と受話器から声が聞こえてきた。

「目ぇ覚ましましたっ。いま起き上がってます!」

男の子の少し焦った声の後、何かを話し、受話器を電話に戻した。何の話しをしているのか、私には理解できない。関係あるのか無いのかもわからない。考えようとすれば、また、頭痛がした。

「先輩、気分悪いんすか?」
「えっと、うん、頭痛がするだけで、他は多分大丈夫なんだけど……えっと…、君、誰?」
「は? 何言うとるんすか。冗談いりませんって」
「冗談じゃないんだけど…君は、私の知り合い、なの……?」
「標準語で話すとか止めてほしいっすわ。虫ずが走りますから」
「……」
「……」
「……あの、」
「先輩、」
「…はい?」
「ホンマに?」
「う、うん…? 何が?」

長い沈黙があった。目の前の男の子は目を見開いたまま私を見ている。何がなんだかわからない私は、男の子を不安げに見つめるしかなかった。
しばらくして、沈黙を破るように入ってきた人を見て、ここが病院の病室なんだと理解できた。


(2010/07/20)