Zet at zeT









「名前! 大丈夫なんっ!?」
「……えっと、…うん。大丈夫……?」
「わからんことあったら何でも聞いてな! うちら名前が入院したって聞いてむっちゃ心配してんから!」
「え、あ、うん。ありがと……」

一時的な退院ということで、病院の先生のすすめもあってか、私は学校に登校していた。少し離れたところには白石くんが居る。テニス部? の仲良くしているメンバーと一部の教師以外、私の記憶喪失の話は知らないそうだ。何かあった時に対応出来るように、同じクラスだったらしい白石くんと忍足くんが私の世話を焼いてくれるらしい。
病室でその話を聞いたとき、申し訳ない気持ちが一杯になって断ろうかと思ったのだが、学校に行けば財前くんに会えるかもしれないという考えが私の中で主張して、結局お言葉に甘えることとなった。……のだが。

「名前、このお菓子好きやんなっ? あげるわ」
「うん、ありがとう」
「これ休んでた分のノート! ちゃんと見返り待ってるからな!」
「うん、ありがとう」
「修学旅行のお土産! 名前おらんからつまらんかってんで? 皆で行く卒業旅行にまた行こうって話してんねん」
「うん、ありがとう」

仲が良かったらしい女友達と会話する。大阪弁……というのが上手く喋れなくなってしまったので、一つだけ何度も練習した単語を連呼していた。皆は気にせず話を続けてくれているようだった。




「……疲れる」

ポソリと出た本音は、授業中である今だからこそなのか誰にも聞かれなかった。
黒板、には見たことのない数字の羅列と記号の羅列が書かれている。数学は病室で白石くんに教わってはいたが理解に苦しむ。
名前は数学得意やったのに。と言っていた白石くんのナカには、私だけど私じゃない誰かが居た。

「…………あ、」

ふと、窓の外、グランドから聞こえる声に引き寄せられて視線を数字の羅列から移せば、どこかのクラスの男子生徒が何かの競技を楽しんでいるところだった。
その中に一人、ぽつんと体操服のジャージを着込みマフラーを巻いて、ズボンのポケットに手を突っ込み誰から見てもやる気の無いのがわかる人物が居た。
太陽の光で耳に装飾しているピアスが反射している。久しぶりに見たその姿は、なんら変わりなかった。


(2011/01/23)