Zet at zeT










今の私が馬鹿なのか、それとも、元々私は馬鹿だったのか分からないけれど、馬鹿なことをしてしまったな、と後悔してしまった。
私の隣には財前くん。私の手が掴んでいるのは財前くんが着ているジャージの裾。私の目が映すのは、財前くん。そして、財前くんの驚いた瞳は、私を映していた。

「な、…んで、…何してんすか」
「…あ、…えっと、ごめん、…あの、あれから、話してないから……」
「…先輩には、白石先輩が居ますやん」
「いや、あの…そうじゃなくて…」
「…ええ加減東京弁止めてほしいっすわ。吐き気する」
「あ、ご、ごめん…」
「俺、部活の途中なんで」
「あの、それは分かってるの!…でも、病院でも、白石くん達が来てから財前くんは全然会いに来てくれないし、学校でも、全然話してくれないし…」
「忙しいから。せやから会いに行かんし、なんで用も無く三年の教室に行かなあかんのですか」
「それは…」

裾を掴んだ手が、はがされる。行き場の無い手同士が絡み合い、私を俯かせた。
何か話をしないと財前くんは行ってしまう。自分から引き止めたのに、何してるんだ、私。

「じゃあ、どうして病院では優しくしてくれたのに、学校ではそんなに厳しい…じゃない、えっと、」
「学校で先輩に優しくする必要って、そんな校則ないですやん」
「そうだけど……病院の時とギャップがある、というか…」
「気のせいっすわ」

何を言っても否定されてしまう。どうしよう、どうしよう。目の前に居る財前くんがだんだん怖くなってきた。でも、それとは逆に財前くんをもっと知りたいという自分が居て、なんだか、変な感じ、だ。もやもやする。…もやもや? じゃないや。ずきずきしたり、本当、変な感じ。

「わた、私っ、財前くんをもっと知りたいのっ…」
「……なんやねん、それ。自分には白石先輩がおるやん。  今更なんやねん…!」
「えっ? じ、自分? え、今更? えっ…!?」
「自分っちゅーのはお前って事や阿呆。先輩にええこと教えたる。耳かっぽじってよぅ聞きや」

耳、かっぽ…?
よく分からないが、ちゃんと話を聞けということ、なのかな。
というか、財前くんが、怒っているようで怖い。顔が近付いて来る。明らかに、財前くんは怒っていた。

「先輩を記憶喪失にさせたんは俺や」

  嗚呼、全てブラックアウト。


(2011/05/18)