「それが、お前の答えなん?」
「ごめんなさい…」
「謝らんでええよ。必死に答えを見つけようとしてたんは知っとったから」
「でも、」
「辛気臭い顔せんと、ほら、あいつんとこ行ったり。俺に負けて悔しがっとるから」
「…うん! 白石くん、ありがとう!」
白石くんはタオルで汗を拭きながら部室の方へと向かって行った。ひらひらと私に向かって振られる右手が、懐かしく思えた。
前の私は、今の私の事を責めるだろうか。それとも、仕方がないよ、と笑って祝福してくれるのだろうか。
テニスコートまで移動すれば、フェンス越しにベンチにうなだれたように座る彼が見えた。タオルを頭から被っていて、どんな表情をしているのかは見えない。
「コラ阿呆財前。何やってんの。白石に負けたぐらいで落ち込むな。アンタが白石に勝てるわけないやん。自分の実力ちゃんと見定めな痛い目に遭うで」
「…ッ、!?」
突然、背後から私の声がしたからか驚いて彼は振り返った。目がぱちくりと見開いていて、口も開閉を繰り返す。
「なッ、…なん、で…先輩っ…!」
「前の私だったらこう言うんだろうなって」
「記憶、戻ったんすかっ…? つか、入院したって…!」
「入院はね、本当だよ。検査入院だから、すぐに退院出来るけど」
記憶は戻ってない。と彼に言えば、落胆よりも安心したような表情を見せてくれた。
そして、彼は私と目を合わさないように、ベンチに座りなおす。
「なんで、来たん…」
「あのね財前くん。聞いてほしいの」
「俺の質問に先に答
「私ね、記憶喪失した原因が財前くんでも気にしないし、それを財前くんが負い目に感じることが無いと思うの。だって、財前くんは私の看病をしてくれたし、勉強も手伝ってくれたじゃない」
「それ、は…」
彼が動揺したように肩を震わせたのを、私は見過ごさなかった。
「全部偽善だったの? 嘘だったの? 私はね、財前くん。…財前くんみたいに、嘘をつきたくない」
「…偽善って……んな言葉どこで覚えてん…」
「病院の先生が、ここまで記憶力が戻るのは凄いことだって言ってた。ただ、前の私の記憶は無いけれど、でも、今の私は、私だから…」
彼は立ち上がる。近付き、私を見る。高い高いフェンスを間に挟み、私達は見つめ合った。
「私は、財前くんが好きです」
嘘じゃない、本当の私。
(完。2011/06/15)