Zet at zeT









「あれ、晋助じゃん」
「げっ」
「げって何よ。つか、ちゃらいスーツ着て何してんの?」
「バイトだバイト。テメーこそ何してんだ。この辺りはお嬢様が来る場所じゃねェぞ」
「辰馬兄さんが忘れ物したから、お店に届けに行くの」
「あいつのバーってそういやこの辺か。…俺が届けといてやるから世間知らずなお嬢様は早く家に帰れ」
「なによそれ!」
「そんままの意味だ。お前みたいなのは、この一帯で働いてる奴らからしたらカモがネギしょって歩いてるようなもんなんだよ」
「なんでよ」
「そんままの意味だっつってんだろ」
「もういいじゃない。これ届けたら帰るんだし」
「良くねェ」
「なんで」
「仕事の邪魔だ」
「晋助の邪魔はしてません」
「してるだろ、現に」
「あー、はいはい。うるさいなぁ。さっさっと届けて帰れば良いんでしょ」
「そうじゃねぇっつってんだよ」
「じゃあもうどうすれば良いのよ」
「届けるもん渡せ」
「いやだ」
「渡せ」
「いやだ」
「渡せっつったら渡せ」
「いやったらいや」
「てめっ…!」
「あ、おい晋助、こーたいの時間……って、誰、そのコ」
「…ちっ」
「こら晋助、センパイに対して舌打ちはないだろー。あ、君さ、お店に来てみない? つか、興味ある?」
「は、はい?」
「……だから言わんこっちゃねぇ…」
「俺とか晋助の仕事ってね、あー…俺、神威って言うんだけどさ、客を捕まえるってのと店で働ける女のコを見つけるんだよね」
「えっと、あの…」
「どう? 男の人と話す仕事なんだけど…」
「こいつキャバに向いてないんで、止めておいた方が」
「えー、そうかなぁ、可愛いからすぐに売れると思うけど」
「交代なんですよね」
「あ、うん、そうだよ」
「俺こいつ送ってくるんで、後、よろしくおねがいします」
「ん、わかった。そっちの可愛いコも、またね」
「あ、はい、さようなら」
「ばいばーい」



「神威さんっていい人ね」
「ただの女好きなだけだろ」
「少なくとも、晋助よりはいい人そう」
「眼科行け眼科」
「ひどっ」
「辰馬に荷物届けたら帰れよ」
「それくらい分かってますー」
「駅まで送ってやるから」
「……ありがと」

夜仕事に対する憂鬱。

(2010/02/22)