What's time is it now? いきなり核心に迫ったつもりなのだろうが、まだまだ甘いなぁと適当に言い流す事にして、私は溜息を吐きつつ隣の運転席に座る喫茶店店員、安室透――ではなく、同期だった降谷零を見遣った。 「降谷くんは私が全て知っててあの喫茶店に来たとでも? 偶然を装って? そんな事出来るわけないじゃない。私、つい最近仕事辞めたの。それくらいの情報は入ってきてるんじゃないの?」 「……そうだな。辞めた事は知っている」 「じゃあ話は簡単。私は今日飲んでて、普段は通らない道を通った。そしたらお菓子みたいな喫茶店があるなぁと思った。その喫茶店から出て来たのは降谷くんだった。どう? 何かおかしいところでも?」 自信満々に一部を除いてだが真実を話せば、今度は降谷くんが溜息を吐く番だった。なんだこれは。交互に溜息を吐かなきゃいけないルールでもあるのか。 仕方がないからそれで納得してやる、みたいな雰囲気を醸し出されているが、これは旧友の好という事にしておこう。彼も、私をそこまで疑っているわけではなさそうだ。疑われる筋合いなんてないのだが、偶然にしては出来過ぎるのも確かである。ここは私も折れておこう。 「降りてもいい? 疑いも晴れたでしょ? お互いこれからも干渉はしない。そういう取り決めだったよね」 「……あぁ。悪かった」 「じゃあ、久しぶりに会えて良かった。きっと、アイツも喜んでるんじゃないかな」 「降りるなら早く降りたらどうですか」 「……あー、はいはい。悪うございました」 車から降りて、ちょっとは傷つけてやろうと、力を込めて思いっきり閉めてやった。音が大きく鳴り響いただけで特に傷はつかなかった。 家に帰って飲み直そう。折角の気分が台無しだ。それは合コン中からそうだったのだけれど、あの男に会って尚更気分が悪くなった。 早く車から離れようと数歩歩けば、気持ち悪くてしゃがみ込んでしまった。 吐き気がする。 この吐き気はまだ私の中のアルコールが完全に分解されていないからなのか、それとも見たくもない顔をした男と会ってしまったからなのか。もしくは、昔のことを思い出してしまったからなのか。そのどれかは残念ながらわからない。 気付けば泣きながらしゃがむ私を立ち上がらせたのは、見たくもない顔をした男だった。解せない。こいつの腕の中で泣くだなんて、私はどうしてこんなに弱くなってしまったのか。 いい加減大人になりたいものだ。今すぐにでもこの腕を解いて、突き飛ばして、帰りたかった。でも、それが出来ないのは私が弱い大人になってしまったからなのだろう。 何かに縋らないと人間は生きていけない。 人という字は、なんて有名なセリフを言うわけではない。けれど、歳を重ねるにつれて益々そう思うようになった。人は支え合わないと生きていけないのだ。それが嫌な相手でも、支えなければ成長出来ないし、前に進めない。 同じ悲しみを、苦しみを、辛さを味わっているはずなのに、私達はそれを拒絶した。拒絶せざる負えなかった。成長の出来ていない大人だったから。 だからって、体は成長しているわけで。十分熟した大人なわけで。まさかこの歳になって朝チュンするとは思っていなかった。 窓へと視線を向ければ、カーテンからは朝日が差し込んで外が明るいなんてすぐに理解出来た。理解するしかなかった。布団を軽くめくると一糸纏わぬ自分の体。そしてリビングから微かに聞こえてくる料理音。 頭を抱えるしかなかった。思考を巡らすしかない。一夜のお勤めなんてここ最近無かったわけだし、あれか。痛くなかった? とか聞くべきなのか。いや、これは男が女に聞くセリフであって女が男に聞いちゃいかんだろ。私は何を考えてるんだ。 思考が定まらず、頭を抱えながら布団の中でゴロゴロと回転。行ったり来たり。思考も行ったり来たり。どうしたらいいのかが分からず、どんどん沼に嵌っていくような感覚だ。何とか抜け出したいのに抜け出せないからこそずぶずぶと入ってしまう。 そして、運命の時が、やってきた。 開かれる寝室と廊下を隔てる扉。現れる男。言わずもがな、お互い関係を断ち切ろうとしていたはずの同期であり、私自身はあまり好ましいと思っていない相手――降谷零。 昨日と全く同じのシャツとスラックスを着用しているが、やはりというかなんというか、少し皺になってしまっているようだ。私ですか、私の所為なのですか。 「何をしてるんだ」 「……あ、……えっと、」 「勝手にキッチン使わしてもらったけど、良かったよな?」 「あぁ、はい」 「早くシャワーでも浴びてこい。朝食出来てるから」 「はい」 それだけ言って去っていく降谷零の態度に違和感を覚えてしまう。その違和感が解決するわけ無く、私はタンスから下着と適当な服を持って寝室を出る。鼻歌を口遊みながら何かをしている同期の姿を想像せず、私はそのままお風呂場へと直行するのだった。 (2018/07/23) |