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 ほぼ同時だった。
登庁し、公安部の会議室に赴こうと、エレベーターのボタンを押して待っていたら隣に誰かが来て、目を向けたら、あ、だなんて私も彼――降谷零も二人して覇気のない声を零した。
 しかし私にとって、一応彼が上司である為、すぐに姿勢を正した。

「おはようございます!降谷さん」

自分でも煩わしいと思う程に声を上げた。

「ああ…おはよう、如月」

 彼は相変わらずそっけない口調でいった。降谷零と私は上司と部下――という関係であるが、恋人という関係性でもある。しかし、彼はちょっとした極秘捜査のせいで滅多に顔を見せない。仕事でもプライベートでも全く顔を合わせない。
 だから久々に会えた事に少し緊張してしまうのだが、その反面嬉しさで口元が妙に緩んでしまう。
 それを抑えるようにギュッと唇を噛んだ。

「おい、乗らないのか」
「…え?あ…!乗ります!」

 どうやら私は、ぼうっと自分の世界に入っていたらしくエレベーターが到着したことに気づいていなかった。
 既に乗り込んでいた降谷さんが、眉根をひそめ、いつもの様にそっけなくいった。
 私は、慌ててエレベーターに乗り込んだ。

 扉が閉まり、私と降谷さん、二人だけの空間。どちらも言葉を発さず、とてもしんみりとした空気が流れている。

 上目遣いに隣にいる降谷さんのほうをうかがった。すると彼も目だけで私の様子をうかがった。
 私は、また、にやけてしまう唇をキュッと噛んだ。すると、降谷さんは大きな吐息をつき、私の腕を引っ張り上げた。
 私の身体は、まんまと降谷さんの思い通りに揺らぎ、そして気づいた時にはすぐそこ、上を向いたら降谷さんの少し不機嫌そうな顔がある。
 彼は、私の顎を掴んだ。そして唇が唇に押し付けられた。強引で少し痛いくらいのものだった。
 私は彼の胸元をキュッと握りしめた。

「ん…」

 私は吐息を零し、唇を軽く開いて、彼の舌を受け入れた。遠慮なく入り込む彼の舌は私の口内を探索した。そして器用に私の舌を掴み取った。
 耳が熱くなるくらい響く生ぬるい水音に子宮の辺りがキュッとなった。そして下腹部に当たる彼の硬くなったソレに、驚いて腰を引けば、ギュッと押し付けられる。
 彼とこれ以上の事がしたくて、欲しくて、私も腰を、そっと押し付けた。

「ユメ子…今ここで、君が欲しい」

 彼は吐息交じりにいった。降谷さんの潤みを増した瞳が私の瞳をジッと見据えている。彼がこんなにも大胆な行動をした事に私は堪らなくなった。

「私も…降谷さんが…欲しいです…」

 私は、歯切れ悪くいった。その瞬間、肉付きの良い臀部をキュッと両手で掴まれ、そのまま壁に押し上げられた。
 今日はパンツスーツで良かったなんて安心してるのも束の間、彼は下から私の唇に噛みついた。

 もう、やめられない、欲しい、そう思った時――耳に響くチャイム音。エレベーターが停まった。
 そして直ぐに扉が開かれた。私は、もう手遅れだと、エレベーターホールで誰かが待っているのを想像した。

 しかし、中々人が入って来る気配がない――私は恐る恐る瞳を開けた。ホール前には誰一人エレベーターを待っている人などいなかった。
 そして今まで浮いていた足が地に着いた。どうやらそこは私たちが目的としていたフロアだった様だ。

 ほんの僅かな時間で、こんなにも心臓がどきどきしているのに、これで終わり何て…と惜しげに目を伏せていると、強引に腕を引かれた。

「ふ、降谷さん?」

 私は、私の腕を引いて前を歩く彼に慌てた様子で名を呼んだ。彼は何も言わない。彼の歩きが早くて私の足がおぼつかず転んでしまいそうになる。

 そして、一つの扉の前にやって来た。降谷さんはその扉を開け、私の背をトンとその部屋の中に押した。

 「あれで、終わりなわけがないだろう」

 微かな光を浴びる降谷さんは、とても意地の悪い顔をしていた。でも、そんな彼の顔に、私の心臓はキュッと閉塞した。
 そしてもう一度、痛いくらい勢いのある口づけが降り注いだ。