恋ひし君

 
ゑえ、それはね。確かに、恋だったのよ。
幼い頃より花園で育ってきたものですから、わたくし 、恋というものをなんて御下品なものなのかしらと思っていたのですけれど、それが大きな間違いだというのは恋に落ちたら直ぐに分かってしまったの。
とても素敵な方でしたのよ。憧れの源氏の君とはまるで違う方ではあったのだけれど。その方は何時いつ も何処か疲れていて、恐ろしく退屈そうな顔をされていたわ。学校からの帰り道、車の中から黒い外套を羽織った制服を見るたびに、如何していつも河川敷に座り込みながらあの様な顔をされているのかしら、と気になってしまって、そうして声を掛けたのが屹度きっと 恋に始まりなのでした。

殿方に自分から声を掛けるなんてはしたない真似はしてはいけませんよ、とお母さん