どうして、もう、こんなことになったのか。
世の中は本当に世知辛いモンである。胸の奥に靄がかった感情を抱えたまま、私はその日、間借りしていた狭い部屋にある必要最低限の必需品をまとめ、一夜にして東京から新潟へと脱兎のごとく逃げ帰ったのだ。
私の姿を見ていい顔をしたのは母と未亡人となった姉ぐらいのものであったが、兎にも角にもそうして私は折り合い悪く、長いこと素知らぬふりをしていた実家へと呆気なく帰ってきたのだった。

私のことをいの一番に迎え入れたのは母であった。それから、記憶にあるよりも随分とこけた顔をした姉が上品げに笑って、私の荷物を奪うと、かつて私が過ごしていた畳の部屋へとそれらを押し込んだ。
二人は随分と上機嫌であったが、とはいえ一方の男衆はなんとも言えぬ不満げな顔をしていた。父はもう既に私に見切りをつけているのだろう、書斎から出てくることはなかったし、兄たちの冷遇も甚だしかった。一番上の兄だけが、労わるように私の近況を聞いてくれたものの私の近況など聞くにも耐えない退廃したものばかりであったため、私は何も言えずに黙り込んでしまったのだ。