メリーゴーランド

 

別に何があったわけでもない。でも、たまにそういう日があるでしょ。何となしに気分が悪い日が。今日はたまたまそういう日だったってだけ。

「意識が散漫としすぎだ、もっと集中しろ!」

稽古場で先生に散々怒られ、憮然とした表情のまま謝ることしかできない私を周りは心配げに見ていたけど、それを気にする余裕すら私にはなかった。
唯一良かったのは今日の稽古が午前中だけだったことぐらいか。ソロのダンスシーンがあったせいで汗だくになった額をタオルで拭っているとれんたが後ろから声をかけてきた。

「ちょっとなまえ、あんた大丈夫なの。まさか風邪とかじゃないよね」
「別にそんなんじゃないけど…ちょっと調子悪いだけで…とにかく病気とかじゃないから」

なんとも煮え切らない口調でもごもごとそういえばれんたは「そう…。ま、それならいいけど…。下級生も心配してるんだからね、今日は早く帰って休みなよ」と言って、さっさと向こうへ行ってしまった。
長い間同じ組でやっている同期だからか、こういうところで妙に遠慮がないのがこういう時にはなんともありがたかった。
れんたの背中を見つめて嘆息しながらスポーツドリンクを一口。ああ…、こんなんじゃいけないのはわかっているけど…。大きなため息が思わずこぼれる。
…今日は早く帰ろう。まさかファンの人たちにこの無様な姿は晒せないし、組子のみんなにだっていつ八つ当たりじみたことをしてしまうかわからない。

「あの、なまえさん!」

…と、重い気持ちのままバッグの中をごそごそといじって帰りの準備をしていると突然後ろから声がかかった。ん、と振り返ればそこにいたのは最近期待されている若い娘役の子だった。

「…あら、どうしたの」
「あ、…あの…なまえさん…」

頬を紅潮させどこか所在無せげに視線を彷徨わせている彼女の姿は非常にわかりやすく、何をしたいのかはすぐにわかってしまった。

「あの、私と…今日、一緒にご飯…」