気付いたら涙が零れていた。
長い長い夢だった。眠っていた時間はいつもより短い筈だったのに、地震で目が覚めるまでの間が随分と長く感じられた。あれが夢のようで夢ではないのだと、なまえは何となく分かってしまった。
この感情は何と答えるべきなのだろう。何度自分に問い掛けてみても答えは見つからない。まだはっきりとしていない意識のままカーテンを開けると昨夜の雨はもう上がったようで、雲の隙間から光が漏れ、光線のように放射状に地上へと降り注いでいる。何処か神々しくも感じるその光景になまえは再び涙が零れた。
「白蘭」
何となく呟いてみたその言葉は初めて口にした筈なのに、棘が刺さったように心が痛くなった。
未来の自分のこと、そして自分が死んでから、白蘭が倒されるまでの出来事を全て一夜にして知ることになったなまえは自分のことのようで、何処か自分では無いような、不思議な感覚に陥っていた。
先程の地震で両親も目覚めてしまっているようだった。両親もこの夢を見たのだろうか。あの夢のように、やはり今此処にいる自分の両親もイタリアンマフィア、ボンゴレファミリーのCEDEFという組織に入っているのだろうか。
どんな夢を見ようと時間は変わらず過ぎていく。学校の支度を終え、家から出るまで両親はあの夢の話をして来なかった。もしかしたらあの夢を両親は見ていないのかも知れない。当たり前か、同じ夢を見る事など有り得ないのだから。
「なまえ!!」
昨日までと同じように学校へ向かおうと、隣の家の玄関を通り過ぎる。すると後ろから慌てたように呼び止める声が聞こえた。
「正一……」
高校に上がってから会うことも減った幼馴染は今にも泣きそうな表情でなまえに駆け寄る。
「僕のせいだ……僕のせいでなまえが」
錯乱している様子からなまえは悟った。きっと正一も同じ夢を見たのだと。未来を、知ったのだと。
「正一は悪くないわ」
その言葉に正一は勢いよく顔を上げた。既に涙は零れていて、顔はぐしゃぐしゃである。その表情になまえは思わず笑い声が漏れた。
「わ、笑うところじゃ……!!」
「ちゃんと白蘭を止めてくれたじゃない」
「!!」
「それに、もうあんな未来は訪れないんでしょ?」
未来で自分が死んだことよりも、なまえは同じ夢を見ている人が隣にいた事にほっとしていた。
「正直あの夢を見てもどうしたらいいのか、分からなくて」
彼女の中で消化されるまでには少し時間が掛かるだろう。
未来の正一はメローネ基地で過去からやってきた沢田綱吉と出会ってから、なまえが死んだことを知ったらしい。その事実を知った未来の正一が悔しがる瞬間を、過去の正一は夢で見てきた。
「でもいつか会えるなら白蘭に会ってみたいな」
「ええ?!しょ、正気かい?!」
「だって、未来の私が好きになった人でしょ。そりゃあ気になるもの」
彼女の瞳は夢で見たような、暗い海の底のような色ではなく、明るく澄んだ天色のような色をしている。
またいつか会える日を夢見て。
そしてその夢はそう遠くない未来に叶うことになる。