スローモーションで死は降りそそぐ
ボンゴレ本部にミルフィオーレファミリーが乗り込む可能性があると、情報屋から仕入れたわたしは敵地付近に偵察として仲間と共に向かっていた。
今回の目的は偵察のみ。敵地付近に足を踏み入れているため、深追いは厳禁であった。
しかし、仲間が敵に見つかってしまい、わたし達は窮地に追い込まれてしまう。本来であれば他の仲間を全員連れて逃げるのが正しい選択であっただろう。だがわたしは甘さを捨てる事が出来ずに一人仲間を連れ、斬られた仲間を救いに敵地に飛び込んだ。
「彼を連れて行きなさい!!」
「でもなまえさん……!」
「いいから行きなさい!!」
仲間を連れた彼は霧属性の幻術使いだ。彼ならきっと上手く逃げ切ってくれる。リングからマモンチェーンを外し、死ぬ気の炎を灯す。せめて彼等が遠くに行くまでは時間を稼がなければならない。
「開匣……!」
◆
死体はわたしを囲むように転がっている。体力は限界が近付いてきていた。
「やあ、まさか此処まで来てくれるとは思わなかったよ。なまえチャン」
「それは、此方の台詞よ……白蘭っ!」
「君を殺したらザンザスくんは怒るだろうね。大事に大事にしまっておいた宝物なんだから」
まさか彼がわたしを殺しに此処まで来るとは思ってもいなかった。それだけボンゴレファミリーを自分の手で殲滅したいということなのだろう。
じりじりと迫り来る彼にわたしは抵抗しようと試みるが、残された力はもう限りなく少なかった。
「バイバイ」
心臓をひとつき。何とか躱そうとするが避けられたのはほんの数センチ。
「くっ………!!が……は……っ」
「肺は完全にやられたみたいだね。死ぬのも時間の問題だ。
最後にザンザスくんの顔でも見て死ぬといい」
白蘭は終始笑顔だった。もう用はないと踵を返す。ここで命を使い果たすか、何とかして戻るか……。
「そうそう。知られたって結局勝つのは僕達だから構わないけど、君が仕入れた情報。間違っていないよ」
「!!」
何とかしてでも戻らねばならない理由が出来てしまった。
銃に死ぬ気の炎を蓄えて地面に向かって撃ち落とす。空を舞うように宙に浮くともう一発を打ち込み、遠くへと飛んだ。
気力と体力は限界だった。リングにマモンチェーンを巻き付け、何とか必死に逃げ切ろうと体に鞭を打ち付け脚を動かしてきたがそろそろ限界だった。
「ふ………くっ………!」
息も苦しい。片方の肺は完全に機能を失いつつある。一度止まってしまえばもう動くことが出来なかった。
このまま此処で死ぬのか……。恐らくミルフィオーレファミリーの追っ手は近くまで来ているだろうし、このままヴァリアー邸に戻るのは危険だった。
段々と体が沈む感覚がした。まずい、このままでは……。走馬灯のように脳内に浮かんだのはザンザスさんだった。
──最後に一目見たかった。
◆
目が覚めたら見慣れた天井だった。
何故。あの森で死んだはずでは。あれは夢だったのか。頭の中はぐちゃぐちゃだった。
ゆっくりと周りを見渡そうとするが体がいうことを聞かない。自分の呼吸が薄い事も段々と把握してきた。あれは夢じゃない。
どうやらわたしはあの森でヴァリアーの仲間に助けられたらしい、もしかしたら共に偵察に行った仲間が心配して戻ってきていたのだろうか。何にしても敵を撒き、此処に戻って来れたのは助かった。
様子を見に来たヴァリアーお抱えの担当医は、わたしが目覚めた事に気付くと急いでルッスーリアに知らせに行った。晴属性の彼は今ではその力を使い、ヴァリアー内の医療関係にも携わっている。
慌てた様子で部屋になだれ込んで来たルッスーリアはわたしの顔見ると泣きそうになりながらも喜んだ。だけど幸せはそう長くは続かない。戻ってきた時に急いでフランの幻術で内臓を補ってもらおうとしたらしいのだが、白蘭にやられた瞬間、どうやら毒まで注入されていたらしい。幻術で補っても死からは逃れられないようだった。
なるほど、道理でじくじくと内側から痛む訳だ。
スローモーションで死は降りそそぐ