人には聞こえない話をしよう


 それは走馬灯の様にわたしの中に写された。これはわたしの過去。





 人には聞こえない話をしよう





 わたしは実の両親の顔をもう殆ど覚えていない。母親が日本人で父親がイタリア人だという事だけ、現在の父から聞かされた。わたしの中にある一番古い記憶は、自分の両手に灯る暖かい炎とそれを見た大人達の悪い笑みだった。
 わたしは生まれつき死ぬ気の炎を宿す事が出来る子供だった。理由は知らない。実の両親は喜んだ。
 どういう経緯かは定かではないが、わたしはエストラーネオファミリーに引き取られた。大方売り飛ばされたのだろう。ボンゴレの血縁者でも無いわたしが死ぬ気の炎を宿したとなると相当な金額になる筈だろうから。
 そこからの生活は地獄の様だった。毎日の様にわたしの体で実験をされ、日に日に体力的にも精神的にも限界が近付いてきていた。それまでの生活も幸福であった訳では無いが、過去に縋りたくなる程毎日は苦痛だった。

 エストラーネオファミリーには幾つもの研究所があるらしい。別の研究所から来たという少年少女達がぞろぞろとこの研究所にやってきた。その時だ、彼──六道骸に会ったのは。
 十年前のわたしは過去の記憶を奥底に閉じ込め鍵を掛けていたので覚えていなかったが、わたしと六道くんは過去に面識があった。勿論城島くんや柿本くんも。彼等はまたすぐ別の研究所へと移ってしまったのでその後は知らなかった。ボンゴレ十代目候補の姉とボンゴレ十代目候補の守護者として再会を果たすまでは。再びマフィアに身を置き再会するとは何方も想像していなかっただろう。

 限界は直ぐにやってきた。日々、体に与えられる負荷が大きくなっていく。そして耐えきれなくなった時にわたしは死ぬ気の炎をコントロールする事が出来ずに暴走。周りの人や建物全てを巻き込みその地を瓦礫の山へと変えた。
 わたしの体はとうに力尽きそのまま意識を失った。死を覚悟したが、もう嫌な思いをしないで済むのならそれで良かった。

 誰かに声を掛けられ、意識が浮上すると自分はまだ死んでいない事を理解した。わたしは沢山の大人達に囲まれていて、別の研究所から仲間が来たのかと思い警戒したが彼等にはボンゴレというファミリーらしい。死ぬ気の炎を宿した子供がエストラーネオファミリーの研究所の一つを潰したという話を聞き付けここまでやってきたと言う。身寄りの無いわたしはそのままボンゴレに引き取られる事になった。



 わたしは周りの大人達を信用することが出来なくなっていた。それでもボンゴレの人達はわたしを咎める事は無く、わたしの心の傷が癒えるまで待ち続けてくれた。ザンザスさんに初めて出会ったのはその頃だった。
 彼はわたしと同じ様に生まれつき死ぬ気の炎を宿していたらしい。同じ境遇でも彼はボンゴレ九代目の息子であり、ボンゴレ十代目候補だということにわたしは少しだけ自分の運命を恨んだ。
 だが彼は努力を怠らなかった、必ずボンゴレ十代目になる為に。部屋には数々の分厚い本達が並んでいた。彼は名前だけで此処に立っているだけでは無い。わたしは彼と触れ合い自分の浅はかさを恥じた。

 ザンザスさんはわたしの過去を知っているからか部屋を訪れてもわたしを咎める事は無かった。わたしはそれが嬉しくてついつい何度も彼の元を訪れた。そうして彼と接していく内にこのままではいけないと、彼の様になりたいと思い始めた。此処にいるボンゴレファミリーはとても良い人達ばかりだった。何も信じられなくなりずっと彼等の言う事を受け入れられず、応え続けなかった自分に反省し、まずは彼等に謝るところから始めようと動いた。

 結果的にわたしは現在の父、沢田家光の元に養子として引き取られる事になった。どうやらボンゴレ側はずっとタイミングを見計らっていた様で、わたしが落ち着くまで待ち続けくれていたらしい。
 ザンザスさんと離れる事になってしまうのは寂しかったが、彼が必ずボンゴレ十代目に就任すると信じ、十代目になる時は自分にもお祝いさせて欲しいと約束してイタリアから日本へと移った。

 そこからわたしはマフィアという裏社会から離れ、平凡な日々を過ごした。両親はわたしを本当の娘の様に育ててくれて、弟である綱吉はわたしを本当の姉のように慕ってくれた。途中それが辛く感じる時もあった。きっとその頃だろう、わたしは自分を守る為に過去の記憶を奥底にしまった。

 そしてわたしはザンザスさんと再会することで再びマフィアの世界に踏み込む事になる。
 わたしの過去は決していい事ばかりでは無かったが、過去があるからこそ現在のわたしがいる。沢田家に引き取られた事、ザンザスさんに出会えた事、ヴァリアーの仲間になれた事、大切になった一つ一つはあの嫌な思い出も含めて過去があったからこそ出会えた奇跡なのだ。