XANXUSとなまえの部屋は廊下に出ずとも繋がっている。初めてなまえがヴァリアー邸での自室を充てられた時にも既にこの通路は存在していたが、実際に使用されたのは数年経った後であった。通路の存在さえ知らなかったなまえはその当時大層驚いた。
夜もまだ遅い午前2時頃。なまえは珍しく魘されて起きた。目が覚めた時には見ていた夢もうる覚えであったが、恐怖を抱いていたのは間違いない。汗をかいて、ネグリジェはぐっしょりと濡れていた。このまま再び眠りにつくのもなんだか気持ちが悪くて、なまえはシャワーを浴びることを決め、バスルームに駆け込んだ。
汗を流し、新しいネグリジェに着替えベッドルームへと戻る。このまま寝ても構わないが、悪夢によって魘された恐怖をまだ忘れることが出来なかったなまえはあの通路を使って、XANXUSのベッドルームへと向かうことにした。
窓側に面しているこの通路は数歩歩けばXANXUSのベッドルームへと繋がっている。窓から外を覗けばそこには晴れた夜の空が広がっていた。今日は星もたくさん見える。なまえはゆっくりと扉を開けてベッドルームを覗いた。
「どうした」
もうすぐ寝るところだったのだろうか、ベッドに腰掛けたXANXUSは肩にタオルをかけ、残り少ないウィスキーが入ったロックグラスを手にしていた。
「怖い夢を見たんです」
なまえはXANXUSの隣に座る。それを横目にウィスキーを嚥下した後、XANXUSは彼女にキスをした。そのまま口内を犯すとなまえの口の中にはウィスキーの香りが広がった。
「ん……お酒の味がする」
「餓鬼が」
なまえも既にお酒を飲める年齢であるが、二十歳を過ぎた時に初めて飲んだお酒を美味しいと感じることが出来ずにそのままである。甘いカクテルなら多少飲むことが出来るが、XANXUSが飲むようなウィスキーやワインはまだ彼女には早かった。
「よく覚えていないんですけど、とっても怖かった気がして」
だから今日は一緒に寝させてくれませんか?となまえが尋ねる。XANXUSはそれに答えることなく、再び彼女に口付けた。そんなもの良いに決まっている。そもそも婚約者になった時点で一緒に寝ようと最初に提案をしたのはXANXUSである。それをなまえが断った為、結婚後も前と変わらず各々の自室で寝ているが、XANXUSからしてみれば毎日でもここを訪れてもらっても構わなかった。
飲み終えたロックグラスを置いてから戻ってきたXANXUSはなまえを抱き竦め、そのままベッドへと雪崩込んだ。起きてから一度シャワーを浴びたのか、彼女の肌からはボディーソープの香りがした。
「お前が恐怖するものは何もない」
「ザンザスさんの隣なら大丈夫」
なまえが、ふふ と笑う。XANXUSは彼女の髪をゆっくりと手櫛で梳いた。こんな柔らかな時間を過ごす日が来るなんて二人とも思っていなかった。
不意になまえがXANXUSの肌をなぞった。そこにあるのは古傷。過去に彼が氷の中で眠っていた時の痕である。過去を振り返るとその度になまえは胸が痛くなったが、XANXUSの奥に残されていた氷は全てではないが彼女によって解けている。XANXUSはなまえが思っているよりこの古傷を忌々しいなどと思ってはいなかった。
「もう寝るぞ」
そう言ってXANXUSはベッドサイドにあるライトを消した。月明かりだけが残され、部屋の中に光が薄く入る。月の光を纏ったなまえの髪は艶やかで、肌の白さは際立った。彼女は明るい太陽も似合うが、ひっそりと静かな夜も似合うとXANXUSは思った。朝も昼も夜も夢中にさせる彼女に内心溜息をつきたくなるが、そんな彼女に惚れたのは紛れもない自分自身である。XANXUSは溜息を飲み込んで、なまえの額にキスを送った。