落ちぬなら


「なんだ、月島さんだったんですね。」

開口一番、祐季はいつものあまり抑揚がない話し方でそう言った。

鯉登の企みは実行され、計画通りひと気のない場所に鯉登が祐季を置いてどこかへ行き、月島は言いつけの通り、変装した姿で祐季を襲おうとしたのだが。

「大丈夫ですか?」
「……ええ、まあ。」

……見事な一発を鼻に喰らってしまい、生理的な涙で月島の視界は滲んで揺れている。
そこに、鯉登少尉が現れた。

「祐季をはなっ…月島ァ!?」
「あ、鯉登さん。」

月島が襲って来たところで鯉登が現れ、勘のいい祐季はすぐに察した。

「一体どういうつもりなんですか、鯉登さん。」

言い訳を許さないかのような視線から逃げたくて、鯉登は冷や汗をかきながらゆっくりと目線を逸らす。この場をなんとかしてもらおうと鯉登が必死に視線を寄越すので、はあ、とため息をついて月島は口を開く。

「鯉登少尉は祐季さんにいいところを見せたかったのですよ。」
「月島ァ!?」

まさか動機をバラされるとは考えてなかったために、慌てて鯉登は縋るように月島の肩を揺らすが、月島は止まらない。

「全てはあなたに惚れさせるために、鯉登少尉が立てた計画です。」
「そうなんですか?」

月島が言ったことは本当なのかと祐季が見つめれば、「キエッ」と小さく鳴いた後、観念して頷いた。

「なんでこんなまどろっこしい面倒な方法なんですか。それなら正面から気持ちを言えばいいのに。」
「そしたら祐季は私を振るだろう。」
「……ええ、多分。」
「キエエエエエッ!!!!」

ショックで猿叫と共に項垂れる上官を見てから、月島は尋ねた。

「……俺が言うのもなんだが、鯉登少尉は顔も家柄も地位もいい。それでも駄目なのは、どこか不満な点があるのか。」
「家柄がいいと親戚付き合いがものすごく面倒くさそうですし、地位があると社交の場が色々と面倒くさそうですし、とにかくそういう気を遣う人付き合いが面倒なんで、尻込みしちゃいますね。それに家柄がいい人と結婚すると、男の子が生まれなかった時にすごく、責められそうで。」









想い人の言葉でさぞやショックが大きかろうと思われた鯉登であったが、

「面倒だなんだと言われたが、何も考えず己の欲のために家や地位に飛びつく阿呆よりは何倍も良いと私は思った。……やはり私は、祐季を諦めきれん。」

……益々燃えていた。