

思ひつつ寝ればや人の見えつらむ
頬に当たる枕があったかくて気持ちがいいのと、それとは別に、まるで頭を撫でられているかのような心地良さもあり、鯉登は浮上しかけていた意識を再び眠りの底へ沈ませた。
それからどれくらい寝ていたのか。
鯉登が目を覚ました時、隣にも部屋にも祐季はいなかった。
「!!」
急に不安に襲われた鯉登は、乱れた寝巻きを正すのも忘れてバタバタと慌ただしく部屋を飛び出した。
「祐季ッ!!」
寝室の周りにある部屋を一通り探し回ったあとで台所に行くと、そこにはここに来た時に着ていたワンピースを見に纏った祐季がいて、鍋をかき回していた。
「ああ、おはようございます。すごい格好ですね。」
ふふっと笑う彼女を見ると一気に安心したので駆け寄って力一杯抱き締めれば、「火を扱ってるんで危ないですよ」と冷静に返されたが、それでも鯉登は離れなかった。
「は? なんち?」
月島軍曹が差し入れだと言って持って来た牛肉の切れ端、人参、じゃがいも、玉ねぎを使って作られたスープ(ポトフ風)の汁を口の端からぼたぼたと垂れこぼしながら、鯉登は祐季に聞き返す。
「鯉登さんが昨日は台所で眠り込んでしまってて、布団まで運ぶのに苦労したんです、と言いました。」
「は?」
「……もう言い直しませんよ。」
何度も聞き返す鯉登に、祐季の表情は能面顔になる。
「お粥をあっため直してて、振り返ったら鯉登さんが寝てるからびっくりしましたよ。ずっと布団で寝ててくれたら、筋肉で重い鯉登さんを一人で引きずる苦労はしなかったのに。」
「引きずった!? もっと丁重に扱えんのか!」
「それだけ突っかかれるなら風邪は大丈夫そうですね。…じゃあ、そろそろ月島さんが迎えに来る頃なんで支度します。お大事に。」
今の会話を整理するに、結論から言えば、昨晩鯉登と祐季の間には何もなかったということだろう。
鯉登は台所で粥をあたため直す祐季の後ろ姿を見ながら眠ってしまった。ということは、祐季が鯉登の寝巻きを着て同じ布団で眠ったのは夢で、そのあと祐季を抱いたのもまた夢なのだ。
少しして鯉登の自宅にやって来た月島軍曹は、いつもと変わらない祐季と、わかりやすく落ち込んでいる生気のない鯉登を見、なんとなく結果を察した。