

頼むから落ちてくれ
「鯉登少尉。お前は何度お膳立てしてやれば彼女をものに出来るのだ?」
「*****!! ***ッ! ********、********!!」
「わからんッ!」
「月島ァ!!」
酒宴を開いた時は、早々に自分が酔い潰れた挙句祐季を抱き枕にし、そのまま爆睡。
そして一昨日と昨日は祐季と一つ屋根の下という状況にあったにもかかわらず、肝心な時に眠ってしまって手が出せなかった。
「警戒心の強い彼女のことだ。私が直接命じてお前と夫婦にしたら、その心を開かせるのは益々難しくなるだろう。
情報を引き出しやすくするためにも、ここは鯉登少尉。お前がなんとしても惚れさせろ。」
「キエッ……。」
鯉登は助けを求めるように隣の月島を見たが、いつもの無表情で見つめ返されるだけであった。
鯉登少尉は遊郭には何度か行ったことはあるので女を知らないわけではないが、意中の女を口説く方法にはとんと疎かった。
祐季が重い荷物を抱えて廊下を歩いていたので声をかけ、自分が持つと提案すれば、
「いえ、持てるんでいいです。」
「そ、そうか。」
と、あっさり断られてあっさり退がり。
高いところにある本を取りたい時は、周囲に頼むことなく自ら椅子を運んで解決。
別の時は、女は香水を贈られると喜ぶそうだと他の兵たちが話しているのをたまたま立ち聞きしたので、店で一番人気だと勧められた香水を贈るも彼女から香りが漂うことは一度もなく、月島をやって理由を探らせれば苦手な香りだったことが発覚し、鯉登はそれはそれは落ち込んだ。
普通の女ならばとっくに落ちてるだろうあの手この手が通用せず、鯉登はとうとう奥の手を使わざるを得なくなった。
「祐季を襲え。」
開口一番そう言われ、月島は思わず「は?」と聞き返してしまった。
年下の上官の眉間にシワが寄る。
「貴様、耳が悪くなったか? 祐季を襲えと言っている。」
「いえ、内容は聞き取れたのですが、意図がはっきりしないもので……。」
不思議がる(というより不審がる)月島軍曹を見て、鯉登少尉は得意げだ。
「悪漢に襲われている祐季の元に、私が駆けつけてその悪漢を見事倒す! ……これで惚れぬ女はおるまい?」
「はあ。」
自信満々に燃えている青い年下上官を目の前にした月島軍曹の反応は、対照的だ。酷く冷めている。
「その悪漢役を、私がやれと言うのですか。」
「そうだ。勿論月島だとわからぬよう、変装はしてもらうぞ。」
楽しそうに話を進めながら、鯉登は紙に作戦を書き出す。
「私は祐季を誘って町へ行く。しばらくして、私がふらっとその場からいなくなって彼女が一人きりになったところで月島が出て来て難癖つけてしつこく絡み、襲いかかる。
そこで! 祐季の助けを求める声を聞きつけた私が颯爽と現れ、華麗に助け出す! ……こんな感じで行こうと思うが、どうだろう。」
どうだろうと言われても、と月島はとても面倒に思ったが、疑問に思う要素はあるので一応指摘してみる。
「祐季さんの性格からして、余程命の危険に晒されなければ叫び声は上げないと思われますが。」
「ならば彼女の口を手で塞いで物陰に連れ込め。」
「それは下手をすれば私が捕まります。」
「なら、ひと気のない場所に私が彼女を連れて来る。それならば問題なかろう?」
問題しかないぞと月島は思ったが、鶴見中尉も鯉登少尉と彼女を夫婦にする気満々だしと、渋々鯉登の作戦に乗った。