みたらし婚


(どうしてこんなことになっちゃったんだろ……。)

ユキは、今自分が置かれている状況を受け入れてはいるものの、なぜそんなことになったのか、そしてこれからどうしたらいいのか、などなど、あれやこれやと考えながら、遠い目をしていた。

そんなユキの目の前では、ムキムキマッチョな体つきをしたひょっとこ男が、一心不乱にみたらし団子を食べている。
現在進行形で貪られているみたらし団子は、ユキがお花見をするために作ったものだ。

毎年桜が咲くと通っているお気に入りの自然公園があり、ユキはいつも手作りのみたらし団子を持参していた。
今年もそうだった。けど、今回がこれまでと異なるのは、自然公園に着いたと思ったら全く見覚えのない、里らしき場所に来ていたことである。
そして、どこかからムキムキマッチョのひょっとこ男がものすごい勢いで駆け寄って来て、ユキが手にしていたカゴを奪い取り、中を暴いてみたらし団子をたった今完食したところだ。

「おい女。」
「はい、なんでしょう。」

もう何がなんだかわからず、考えても無駄だと判断して諦めたユキは、初対面の相手から「おい女」などという不躾な言葉をかけられても、動じない。
しかしひょっとこ男が互いの呼吸がわかるくらいの至近距離まで迫ると、流石のユキでも思わず身構えた。

「このみたらし団子、どこの店で売ってるものだ?」
「私の手作りです。」
「お前の家は団子屋か。」
「いえ、団子屋じゃないです。」
「団子屋でもないのにこんなに美味いみたらし団子を作れるのか。」
「だんご粉と水と醤油と砂糖があれば作れますよ。」

見ず知らずの、それもひょっとこのお面をつけている変わった男と、こうしてみたらし団子トークをしている状況はなんともシュールだ、とユキは心で笑った。

いつのまにか周囲には、男と同じようにひょっとこ面をした人たちが集まっていて、なんだなんだとこちらの様子を伺っている。
ユキも周りをちらりと見てみたが、あちこちに点在している住居らしき家屋は、どれも時代劇で出てきそうな古いデザインのもので、人々は誰も彼も和装。
何かの撮影現場だろうかと一瞬考えたが、撮影スタッフらしき人物は一人もいない。カメラ等の機材も見当たらない。

「決めた! お前を嫁にする。」
「は、」

周囲に気を取られているところで突然手を掴まれ、公衆の面前で堂々の嫁にする宣言されてそのまま男の家に連れ込まれる。

「あ、あのっ、嫁にすると言われてもあなたの名前も素顔も何も知らな…あ、いやみたらし団子が好きなのはなんとなくわかるんですけど、今さっき知り合ったばかりなのに結婚て……!」

畳んであった布団を広げ、戸惑うユキを思いの外優しく寝かせると、ひょっとこ男は覆い被さった体勢でひょっとこお面を外す。

「……!」

予想外にも端正な顔が現れたため、ユキはひゅっと息を呑む。

「鋼鐵塚蛍。」
「え?」
「俺の名前は、鋼鐵塚蛍だ。」
「蛍、さん……。……私は、ユキです。」
「ユキ……ユキか……。」

鋼鐵塚はユキという名前を確認するように繰り返し呟くと、その乾いた唇を嫁の唇に重ねた。
かなり強引に嫁にし、今から夫婦の契りまでしようという乱暴な人物だが、ユキの服を脱がせる時も、やわらかな乳房の弾力を確かめる際も、まるで壊れ物を扱うかのように優しくて、不思議とユキは嫌悪感を抱かなかった。

「ユキ、お前は今日から鋼鐵塚ユキだ。俺の嫁だ。だから、これから毎日俺のためにみたらし団子を作れ。」
「はいっ……。」

もう、たとえ元いた場所に戻れなくても、この人がお嫁さんにしてくれたのだから、もう何も心配しなくていい。
それだけで、これ以上ない程の安心感をユキは抱くことが出来た。

嫁の来手がないことを心配されていた37歳児・鋼鐵塚蛍だったが、意外や意外、強引に嫁にしたユキとの仲はかなり良好であり、4人の子宝にも恵まれて、「ユキさんが規格外に心の広い良い人で助かった」と、里長や鉄穴森が感謝の言葉を述べる程であった。
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