前途多難
「……はい、治りました〜」
「ありがとうユキ先生!」
「いつもこれくらい軽い怪我だといいんですけどね」
皮肉のつもりでかけた言葉だったが、少年には通じなかったようで無邪気なニコニコ笑顔に変化はない。
爽やかな笑顔のまま保健室を去る虎杖と、ヒラヒラと手を振って見送るユキ。
ユキの能力は、【自身に拒絶の感情が発生すると、対象を滅する】ものだ。
今でこそ五条や家入からの指導を受け、ある程度コントロール出来るようになり、【怪我や病を拒絶することで治す】ことで家入の補佐として治療を担えるレベルに達しているが、以前は拒絶する気持ちを抑えられずに容赦なく見境なく滅してしまっていた。
(街中を走り回る選挙カーを消してしまったり、駅員に怒鳴り散らす中年男性を消してしまったり、時には満員電車の中で泣き喚く赤ん坊をも消してしまうために、本人はかなり悩んでいた。)
その能力のために、ユキは幼い頃より周囲から恐れられた。
呪術師の家系ではなく、ごく普通の家庭に生まれたのもあって、両親からも弟からも祖父母からも腫れ物扱いを受けた。
「彼女の悪口を言うな。消されるぞ」
「彼女の機嫌を損なうと消されるぞ」
「彼女には関わらない方が身のためだ」
……といった感じで、気味が悪いほどチヤホヤされることもあれば、化け物を見るかのような顔つきを見せて逃げられたりで、家にも学校にも居場所はなかった。
就職はしたものの、仕事や人間関係でストレスが溜まる度に誰かを消してしまいそうで、それが更にストレスを高める。
そんな彼女を引き取ったのが五条悟。
「その能力があれば、自分の身を守れるタイプの医者になれるよ!」
そう言ってニコニコ笑って、ユキを呪術高専の医師として引き入れた。
誰かの役に立てることが嬉しくて、ユキは制御するための修行に毎日ひたすら取り組んだ。
初めて患者の治療にあたって怪我を治せた日、家入から「よくやった」と頭を撫でられたユキは、他人から褒められ、触れられたのが嬉しくて、涙を流して喜んだ。
◇
最初は慣れない環境、特に初めて会う人ばかりで戸惑いを隠しきれないユキだったが、今ではすっかり慣れた。
仕事真面目でやることはきっちりやるので教職員たちや補助監督たちからは信頼され、優しく親身な姿勢で関わりながらも深入りしないでくれるところは、生徒たちに慕われた。
彼女は特に家入や五条と仲が良く、家入は同じ医療担当で弟子で、案外イケる口のユキを妹のように可愛がり、五条は自分に対して「すごい」と認めた上で普通に友人として接してくれるユキに懐いている。
「友人から恋人、そして夫婦にステップアップするには一体具体的にどうしたらいいのー!?」
机に突っ伏して泣き喚く元級友で現同僚の男を眺めながら、家入はただただ酒をグビグビあおる。
「……僕を肴に飲んでないで、何か言ってよ」
「まずはお友達から始めれば?」
「だーからもうお友達なんだってば!」
「はいはい、そーだったそーだった」
なんでも持っててなんでも出来ちゃうと言われる、"ナイスガイ"を自称する五条悟。そんな男が頭を悩ませるのは、自分とユキとの関係。
「はぁ〜……なんで好きになっちゃったかな〜」
「それが恋というやつでしょ」
好きなら落とせばいいじゃないか、とどこか意地悪く笑って言う家入からは、「得意だろ?」という心の声も聞こえてくる。
「確かに僕はモテるよ。引く手数多のよりどりみどりだよ」
「よっ、グッドルッキングガーイ」
全く心の込もってないヨイショをし、家入はもう何杯目かわからぬ酒を飲み干す。空になったグラスにボトルワインをドボドボと注ぎ込むと、そういう絡繰人形のようにグビグビ喉に注ぎ込む。
「グッドルッキングガイの僕でもユキは、特級呪霊祓う方が簡単に思えるレベルで手強すぎる」
五条はヘタレではないから、これまでユキに対してあらゆるアピールはしてきた。
出張から戻ったらまず、ユキにお土産のお菓子を手渡しながらお茶に誘った。
「いい設備が揃ってるよ」という誘い文句で自宅に呼び、キャラメルババロアやプリン、アイスクリームを作ってもらった。
各地のスイーツカフェの情報には常に目を光らせて、これはと思う情報があればユキを誘って食べに行
「食べ物ばかりじゃないか」
思わず途中で家入がぶった斬り、
「男子高校生でももう少し頑張るわ」
「ユキが手強いというより、五条の策がぬるいだけだ」
「その程度のアピールで意識しろというのが無理な話だよな」
と続け様に斬りつけた。「30手前の男がやることとは思えない」とも言われ、五条は表情をムッとさせる。
「二人でランドにも行ったし! ……ユキは人混みが苦手で、僕ばかりはしゃいでたけど」
「失敗してるのに何イキがってんの。てゆうか五条、ちゃっかり自宅に呼んでおいて手は出さなかったのか」
「あーうん……お菓子が完成してちゃんと出来てるか味見したら、ユキは満足してそのまま帰っちゃうんだ」
「せめて呼び止めるとかしなよ」
家入硝子という人物は、あまりいちいち気に留めない性格をしているのだが、引き金に指をかけておいて引こうとしない(というよりはわざと弾を外している感じか。)五条悟に、段々とイライラし始めているのを自覚して、せっかくの酒が不味くならないかの心配をし始めている。
「……彼女さ、たとえ相手が友人でも、他人と必要以上に距離を詰めないよう気を張ってるとこあるだろ。だから、あまりこっちからズカズカ踏み込んで、嫌がられたくない」
「五条みたいなのでも、そういう遠慮をすることがあるんだな」
「多分、ユキにだけだよ」
関係が壊れるリスクを伴う行動をわざわざせずとも、現在の《友達》という関係のままでい続けるのも、選択肢のひとつだろう。
だが五条悟は、彼女とこのまま何食わぬ顔でお友達でいられる自信はないし、お友達でいるつもりもない。
五条家の嫡子相手だからと色目を使ってくることなく、そのままの五条悟として気負わずに遠慮なくお茶したりお喋りしたりしてくれるユキが、好きだ。
話しかけただけで嬉しそうに笑顔を見せるユキが、好きだ。
ふざけておどけてみせると割とノってくれるユキが、好きだ。
甘いおやつを幸せそうに美味しそうに頬張って食べるユキが、好きだ。
普段は温厚でおっとりしてて真面目なのに、怒ると容赦ないユキが、好きだ。
得意なお菓子作りをしている時の、真剣で楽しそうなユキが、好きだ。
「大福みたいにやわらかそうで美味しそうな白い肌も好きだし、服の上からでもわかるおっきくてハリのあるおっぱいも好きだし、おっきいけどキュッと締まったお尻も好き」
「容姿の部分だけ聞くと、五条が救いようのないドスケベ野郎に思えてくる」
「知らねーの? 好きな子相手だと、みんなドスケベになるんだよ!」
親指を立てながら声高に言い切る五条は、腹が立つほど潔い。
◇
翌日、五条はユキからマジビンタを喰らった。正確には《無限》によって手のひらが直接五条の頬に叩き込まれることはなかったし、《無限》のことはユキも知っている。
それでも、「コレ直で喰らったらぜってーいてぇだろうな」と五条が思ったくらいには、力強いマジビンタだった。
「アンタ、ユキに何したの」
「ユキのどこが好きか伝えまくって、おっぱいとお尻褒めたところでマジビンタされた。まだ途中だったのにさ」
「クズ」
-11-「ありがとうユキ先生!」
「いつもこれくらい軽い怪我だといいんですけどね」
皮肉のつもりでかけた言葉だったが、少年には通じなかったようで無邪気なニコニコ笑顔に変化はない。
爽やかな笑顔のまま保健室を去る虎杖と、ヒラヒラと手を振って見送るユキ。
ユキの能力は、【自身に拒絶の感情が発生すると、対象を滅する】ものだ。
今でこそ五条や家入からの指導を受け、ある程度コントロール出来るようになり、【怪我や病を拒絶することで治す】ことで家入の補佐として治療を担えるレベルに達しているが、以前は拒絶する気持ちを抑えられずに容赦なく見境なく滅してしまっていた。
(街中を走り回る選挙カーを消してしまったり、駅員に怒鳴り散らす中年男性を消してしまったり、時には満員電車の中で泣き喚く赤ん坊をも消してしまうために、本人はかなり悩んでいた。)
その能力のために、ユキは幼い頃より周囲から恐れられた。
呪術師の家系ではなく、ごく普通の家庭に生まれたのもあって、両親からも弟からも祖父母からも腫れ物扱いを受けた。
「彼女の悪口を言うな。消されるぞ」
「彼女の機嫌を損なうと消されるぞ」
「彼女には関わらない方が身のためだ」
……といった感じで、気味が悪いほどチヤホヤされることもあれば、化け物を見るかのような顔つきを見せて逃げられたりで、家にも学校にも居場所はなかった。
就職はしたものの、仕事や人間関係でストレスが溜まる度に誰かを消してしまいそうで、それが更にストレスを高める。
そんな彼女を引き取ったのが五条悟。
「その能力があれば、自分の身を守れるタイプの医者になれるよ!」
そう言ってニコニコ笑って、ユキを呪術高専の医師として引き入れた。
誰かの役に立てることが嬉しくて、ユキは制御するための修行に毎日ひたすら取り組んだ。
初めて患者の治療にあたって怪我を治せた日、家入から「よくやった」と頭を撫でられたユキは、他人から褒められ、触れられたのが嬉しくて、涙を流して喜んだ。
◇
最初は慣れない環境、特に初めて会う人ばかりで戸惑いを隠しきれないユキだったが、今ではすっかり慣れた。
仕事真面目でやることはきっちりやるので教職員たちや補助監督たちからは信頼され、優しく親身な姿勢で関わりながらも深入りしないでくれるところは、生徒たちに慕われた。
彼女は特に家入や五条と仲が良く、家入は同じ医療担当で弟子で、案外イケる口のユキを妹のように可愛がり、五条は自分に対して「すごい」と認めた上で普通に友人として接してくれるユキに懐いている。
「友人から恋人、そして夫婦にステップアップするには一体具体的にどうしたらいいのー!?」
机に突っ伏して泣き喚く元級友で現同僚の男を眺めながら、家入はただただ酒をグビグビあおる。
「……僕を肴に飲んでないで、何か言ってよ」
「まずはお友達から始めれば?」
「だーからもうお友達なんだってば!」
「はいはい、そーだったそーだった」
なんでも持っててなんでも出来ちゃうと言われる、"ナイスガイ"を自称する五条悟。そんな男が頭を悩ませるのは、自分とユキとの関係。
「はぁ〜……なんで好きになっちゃったかな〜」
「それが恋というやつでしょ」
好きなら落とせばいいじゃないか、とどこか意地悪く笑って言う家入からは、「得意だろ?」という心の声も聞こえてくる。
「確かに僕はモテるよ。引く手数多のよりどりみどりだよ」
「よっ、グッドルッキングガーイ」
全く心の込もってないヨイショをし、家入はもう何杯目かわからぬ酒を飲み干す。空になったグラスにボトルワインをドボドボと注ぎ込むと、そういう絡繰人形のようにグビグビ喉に注ぎ込む。
「グッドルッキングガイの僕でもユキは、特級呪霊祓う方が簡単に思えるレベルで手強すぎる」
五条はヘタレではないから、これまでユキに対してあらゆるアピールはしてきた。
出張から戻ったらまず、ユキにお土産のお菓子を手渡しながらお茶に誘った。
「いい設備が揃ってるよ」という誘い文句で自宅に呼び、キャラメルババロアやプリン、アイスクリームを作ってもらった。
各地のスイーツカフェの情報には常に目を光らせて、これはと思う情報があればユキを誘って食べに行
「食べ物ばかりじゃないか」
思わず途中で家入がぶった斬り、
「男子高校生でももう少し頑張るわ」
「ユキが手強いというより、五条の策がぬるいだけだ」
「その程度のアピールで意識しろというのが無理な話だよな」
と続け様に斬りつけた。「30手前の男がやることとは思えない」とも言われ、五条は表情をムッとさせる。
「二人でランドにも行ったし! ……ユキは人混みが苦手で、僕ばかりはしゃいでたけど」
「失敗してるのに何イキがってんの。てゆうか五条、ちゃっかり自宅に呼んでおいて手は出さなかったのか」
「あーうん……お菓子が完成してちゃんと出来てるか味見したら、ユキは満足してそのまま帰っちゃうんだ」
「せめて呼び止めるとかしなよ」
家入硝子という人物は、あまりいちいち気に留めない性格をしているのだが、引き金に指をかけておいて引こうとしない(というよりはわざと弾を外している感じか。)五条悟に、段々とイライラし始めているのを自覚して、せっかくの酒が不味くならないかの心配をし始めている。
「……彼女さ、たとえ相手が友人でも、他人と必要以上に距離を詰めないよう気を張ってるとこあるだろ。だから、あまりこっちからズカズカ踏み込んで、嫌がられたくない」
「五条みたいなのでも、そういう遠慮をすることがあるんだな」
「多分、ユキにだけだよ」
関係が壊れるリスクを伴う行動をわざわざせずとも、現在の《友達》という関係のままでい続けるのも、選択肢のひとつだろう。
だが五条悟は、彼女とこのまま何食わぬ顔でお友達でいられる自信はないし、お友達でいるつもりもない。
五条家の嫡子相手だからと色目を使ってくることなく、そのままの五条悟として気負わずに遠慮なくお茶したりお喋りしたりしてくれるユキが、好きだ。
話しかけただけで嬉しそうに笑顔を見せるユキが、好きだ。
ふざけておどけてみせると割とノってくれるユキが、好きだ。
甘いおやつを幸せそうに美味しそうに頬張って食べるユキが、好きだ。
普段は温厚でおっとりしてて真面目なのに、怒ると容赦ないユキが、好きだ。
得意なお菓子作りをしている時の、真剣で楽しそうなユキが、好きだ。
「大福みたいにやわらかそうで美味しそうな白い肌も好きだし、服の上からでもわかるおっきくてハリのあるおっぱいも好きだし、おっきいけどキュッと締まったお尻も好き」
「容姿の部分だけ聞くと、五条が救いようのないドスケベ野郎に思えてくる」
「知らねーの? 好きな子相手だと、みんなドスケベになるんだよ!」
親指を立てながら声高に言い切る五条は、腹が立つほど潔い。
◇
翌日、五条はユキからマジビンタを喰らった。正確には《無限》によって手のひらが直接五条の頬に叩き込まれることはなかったし、《無限》のことはユキも知っている。
それでも、「コレ直で喰らったらぜってーいてぇだろうな」と五条が思ったくらいには、力強いマジビンタだった。
「アンタ、ユキに何したの」
「ユキのどこが好きか伝えまくって、おっぱいとお尻褒めたところでマジビンタされた。まだ途中だったのにさ」
「クズ」
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