03

「なまえのご両親は、沢山なまえに読み聞かせをしてあげたのね」

サラさんがふと呟いた。子供達に強請られて、最近は毎日ぼんやりとしている記憶の中から絵本の内容を思い出す作業を暇さえあればしている。そうしていくつもの絵本の内容を記憶の通りに、どうしても思い出せなかったらサラさんやユーリさんに相談しながらオリジナルで完成させて、子供達に語ることが最近の日課だった。

「それだけ知っているということは、それだけ読み聞かせをしてもらったということでしょう?」
「……確かに」
「それとも、本を読むのが好きだったのかしら。ちゃんと生活ができるようになったら、もっと沢山の本を読んでみるといいわ」

私は私のことをぼんやりとしか覚えていない。絵本の内容を思い出しても、それに関連する記憶は全く出てこないので、いっそ感心しているほどだ。

「後で私のオススメの本を教えてあげるわ!ウィンリィにも読み聞かせしてあげたのよ」
「娘さんでしたっけ」
「ええ。今は……もうすぐ9歳になってしまうわね。帰ったときに渡すプレゼントを考えなくちゃ」

私ももうすぐで14歳になってしまう。もう半年もここにいるのだ。腕の怪我だって足の怪我だってすっかり治っているのに、ずるずるとここにいる。未来を考えないようにしている。

「なまえは、そろそろ安全な場所に行くべきだわ」
「……はい」
「不安?」
「そうですね、記憶が曖昧で親戚がいるのかも分からないし……」

きっとこれから一人で生きていかなければならないのだ。軍に保護されたらどうなるのだろう。孤児院に連れられるのだろうか。14歳はもう独り立ちをさせられるのだろうか?私は私のことがよく分かっていないのに。

「……ねえ、そうだわ!リゼンブールへ行かない?」
「リゼンブール?」
「私達の故郷よ。ウィンリィへの手紙を託すから、渡しに行ってくれない?田舎で何も無いけれど、だからこそ考え事するにはぴったりよ」

いい考えだわ!と一人盛り上がったサラさんは、ユーリさんを読んでさっそく手紙を書くぞと息巻いている。私は返事をする間もなく決まった出来事に、呆気にとられていた。二人は今は何故か治療している相手に自分の娘がいかに可愛いかを力説していた。

「先生達って、時々強引よね」
「強引というか、こうと決めたらテコでも動かない感じ」
「確かに!」

話を聞いていたらしい女の子がほんの少し呆れたように笑った。

「でもその強引さに私達は救われたから。お姉ちゃんももっと強引になるべきよ」
「……どうかなぁ」
「お姉ちゃんはもっと自己主張するべき!」

主張する自己があまりないのだ。そんな事言われても仕方ない。けれど女の子は私の事を心配してくれているらしく、その忠告は受け取っておくことにした。「ありがとうね」と女の子の頭を撫でてみたら、女の子は花が咲いたように笑った。