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数多のライトノベルの主人公は言った。

「俺は一般人だ」「俺は平均的な人間だ」私も、彼らと同じく一般人(パンピー)だ。週刊誌で連載されているような漫画の主人公たちみたいに特殊能力に目覚めるだとか乙女ゲームの主人公のごとく、逆ハーレムに巻き込まれたり、悪役の令嬢に転生したりなどしない。むしろ、ご遠慮させていただきたい。転生したら絶対に生き残れる自信なんてないのだ。それこそ、高望みだと理解している。ああいう彼らはよく悪役や敵キャラに囲まれるシーンが多いが、私も過去に一度だけ、人間ではないものに囲まれたことがある。それは、鳩たちだ。

ある日の昼休み。天候がよく、風が気持ちの良い日だった。私は会社の近くにある森林公園で、お弁当を広げて昼食を取っていた。その時、駅などで見かける鳩たちがたくさんやってきて、取り囲んだ。
一匹だけではあまり迫力がないが、大勢の鳩に取り囲まれるというのは、なかなかの恐怖体験である。彼らは「その飯をくれ」と言わんばかりの瞳を私にぶつけてきた。見つめてくる無数の瞳はなかなか恐ろしく、私はお弁当のおかずを少しあげた。鳩たちにちょびっとずつご飯をせっつかれたりしながら私の日々は緩やかに進んでいった。

「最近、苗字先輩、楽しそうですよね」
「そうかな?ただ公園でご飯食べてるだけだよ」
「誰かとランチにでも?」

後輩の女の子が面白そうに言った。彼女の勘ぐるようなことはなく、むしろ反対だ。鳩と和やかに過ごすOLなんて世界中で私ぐらいしかいないと豪語してもよい。

「鳩がよく近寄ってくるんだよね、ちょびっとあげるからかも」
「なんだ、恋人とかいるわけじゃあないんですね」
「そりゃまあ、ね。今はあんまり欲しくないんだよ」
「ええ、勿体ない。先輩ほどの綺麗な方だったら恋人の一人や二人でもできそうなのに」

ころころと表情を変える彼女の方が私よりも愛らしい。実際、私なんて身長が高くて事務能力があるだけだ。彼女のような包容力などほとんど皆無に等しい。

「ああそういえば馬場先輩の噂知ってます?」
「馬場?あのクマの酷い」
「そうです。馬場先輩、最近何かに追われているような素振りじゃありません?」
「ストーカーとか?」

馬場先輩とは私の同期の男性だ。後輩の言う通り、目の下のクマがひどい。カフェインを多く取るらしく、あまり眠れないんだと聞いたことがある。綺麗な顔をしてるが、クマで台無しだ。まったく、クマをなくせる薬があれば、彼は飲むかもしれないだろう。

「彼くらいかっこいいなら仕方ないんじゃない?まあストーカーとかだったら警察とかに対処してもらってるでしょ」
「心配ですねぇ…」
「私達がどうこうできる問題じゃないよ。ほら仕事仕事!」
「はーい」

さっさと手で追い払うと、後輩は自身の持ち場へ戻った。17時まであと少し。さっさと時間内に終わらせて家に帰るんだ。