底は常闇

「あなたが魔法を使うところを以前見たことがあるのですよ。」


ただ、書簡を届けにきただけだった。
ヴェルトマー家の新たなる当主__セティ様に話しかけられたのはこれが初めてであった。
解放軍に属していた風の勇者様が、我がヴェルトマー公国前当主・アルヴィス様の弟君であるアゼル様の息子であるという話は瞬く間に広がり、重鎮共が何か手回しをしたようで、彼はこの国の当主に押し上げられた。勿論妹君であるフィー様も、我が国の手中に。傍系だからという彼の主張は、残念なことに重鎮たちの前ではなかったことにされたらしい。
まあ、詳しい話なんて、たかがいち宮廷司祭の私が知るところではないのだが。

「…お恥ずかしい。歳だけ一丁前の、こんな私の魔法なんぞを当主様に見せてしまい申し訳ありません。」
「何故謝るのですか。」
「エルファイアー如きの魔法しか使わなかったでしょう。私は。」

おそらく当主様が見たのは、一週間ほどまえに私が数人の部下を引き連れて賊を誅罰した件だろう。あの日はエルファイアーしか使わなかったし、元々私は高位ランクの魔導書を使わなければいけない場面は必ず人目に触れないように細心の注意を払っているから、肩書に相応しくない戦い方をしていると思われたのかもしれない。
宮廷司祭になったのは兄のおかげ。実力不足のお飾り司祭。そう言われているのを、知っているから。

「宮廷司祭なぞ名ばかりだと、そう思われても仕方がない戦い方しか私はしておりませぬ。私の評判もご存じでしょう。当主様のご命令であれば解雇でも何でも受け入れます。」
「何を仰るのです。」
「…え?」
「使っていたでしょう。メティオ。」

どくんと、心臓が嫌な跳ね方をする。
見られていた?
いつ?
どこで?
最近では全く、ええ、全くと言っていい程使っていない魔導書の名を挙げられた私は目に見えて動揺していたのだろう。当主様は怯えさせたかったわけではないのですが…と困ったような表情を浮かべていた。


「シアルフィ。前皇帝の最期であったあの戦いに、参加していましたよね。貴女は。」


どくん。どくん。心臓が嫌な鼓動を刻む。

「高位ランクの炎魔法を扱えるとは、流石と言うべきか、何と言葉を宛がうべきか。」
「メティオを使える魔導士は他にもおります。見間違えでは?」
「いいえ間違えるはずがない。」

何故こうも断言できる。目の前のこの男が分からない。私は何を、どのような回答を求められている?


「傍系と言えど私もファラの血を継ぐ者。血族の気配には敏感なのですよ。」

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