12月27日



塾と家の往復しか冬休みの予定がない私を、買い物に友達が誘ってくれた。特に買うものなんてなかったけれど、友達の誘いが嬉しくて何も考えずにOKした。それなりに暖房が効いたショッピングモールは温かくて過ごしやすいけれど、クリスマスが終わった後の、年の瀬が迫った独特の忙しなさが大人も子供も支配している。

「洋服、買わないの?」
「塾と学校しか行かないから、困ってないんだよね」
「そう?せっかくセールなのに」
「セールでも、要らないし。にしても、よく買ったね」
「来月、クラスでご飯食べに行こうって話あるじゃん?その時のお洋服も見ちゃおうかなーって」
「あぁ」
「……なにそのリアクション」
「私、行かないから」
「なんで?!」

私がいなくても男女のクラス仲がいいあの雰囲気ならば、盛り上がり方は変わらないだろう。それなのに、彼女は一大事のように「ご飯会が如何に楽しく有意義か」と捲し立てていた。

「食満も来るよ?」
「なんで食満くん?」
「な、仲いいから?それに、食満も「お前来ないの、寂しい」とか言うよ?!」
「似てないし、食満くんはそんなこと言わない」

絶対にそんなこと言わない。だって私と食満くんは多分そんなに仲良くない。それが分かったのは最近だけど。最後に食満くんと話したのは、終業式の日。「お前が色々教えてくれたから、結構成績良かった」と笑ってくれたのが嬉しくて、最後の三学期もいいお友達としてよろしくね、なんて話たら微妙な表情をされた。食満くんは優しいから、私にも優しく「友達みたい」に振る舞ってくれただけなのに、私が勘違いしてしまった。

「お願い!絶対来て欲しいの!あ、一緒に君が当日着る服選んであげる!」

ぐっと手を引かれて歩き出す。結構強引なところがあるけど、面白そうなので着いていく。もちろん、参加の意思なんてちっともなかった。二人で暫く歩いていると、私はある店のワンピースを着たマネキンの前で足を止めた。

「着てみたら?」
「いいよ、なんか高そうだし。着て行くところもないし」

普段は制服以外でスカートなんて履かないのに。なぜかそのワンピースに強く心が引かれてしまう。彼女は得意げな顔で、近くのハンガーに掛かっていたマネキンが着ていたワンピースと同じものを押し付けてくる。

「ご飯会あるじゃん。あの!試着室借りたいです!」

ぐいぐいと彼女に押されて入った狭い箱で、静電気で頭が凄いことになってることも気にせずにワンピースを着てみた。マネキンが着ていたのはすごく素敵だった気がするのに、私が着るとなんとなくダサく見える。脚が出過ぎで太く見える気がするし、胸が無いのが良かわかる気がするし、何よりもスースーして落ち着かない。

ふと「新しい服を買う時に頭に浮かんだ相手がいるならば、それは恋だ」と何かで見たのを思い出す。思い返してみれば、前髪を切った日も、猫を見かけた日も、夕陽がきれいだった日も、食満くんに最初に伝えたかった。そして、今もずっと食満くんのことを考えている。
まさかそんな。食満くんは大事な友達だ。それなのに、なんで顔が熱いんだろう。何だか恥ずかしくて、全身くすぐったくて、大声で違うって叫びたいのに、妙に幸せな気分だ。くるりと一回転して、スカートの裾が躍ったのを確認する。意外と、悪くないかもしれない。

意を決してカーテンを引いてみれば、待っていましたと言わんばかりの表情の友達。

「可愛い!食満も絶対可愛いっていうよ!これ着てご飯会行こ?」

顔が熱い。お姉ちゃんからコートも靴もカバンも借りて、出掛ける自分を想像してしまう。それだけでも恥ずかしいのに、食満くんに可愛いと言ってほしい気持ちがあるのはもっと恥ずかしい。

「……ってか大丈夫?顔赤いよ?」
「なんか、恥ずかしくて」

二人で休憩がてらアイスを食べる頃には、私の左手に可愛らしいショッピングバッグが下げられていた。

ねぇ食満くん、私は終業式の日に友達としてよろしくねって言ったけど、友達以上になりたくなっちゃったみたい。


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